前橋育英イレブン(写真=松尾祐希)
勝負を決めたのが、エースが放った1本のスルーパスだった。
11月23日、高校サッカー選手権の群馬県予選決勝が行われ、前橋育英は桐生一と対戦。長年県内で覇権を争ってきたライバルチームとの一戦は1点を争う好ゲームとなったが、後半14分にFW守屋練太郎(3年)が決定機をモノにし、最後までこの得点を守り切って1-0で勝利した。
序盤から相手の素早いプレスに苦戦したチームは後半にリズムを掴んだ。立ち上がりから何度も好機を作り、桐生一の守備陣をじわじわと追い込んでいく。そうした中でMF笠柳翼(3年)が勝負の行方を決めるプレーを見せる。
前半から何度も左サイドハーフのポジションでボールを受けていた笠柳。後半は外だけではなく中央でもパスを貰い、相手が嫌がる場所で“怖さ”を見せていた。14分に迎えた場面も中央でボールを保持し、相手の出方を伺う。収めるプレーをしながら仲間の動きを見逃さず、最終ラインの背後に絶妙なスルーパスを通した。右サイドで受けた守屋は待ってましたと言わんばかりのタイミイングで抜け出し、相手DFをブロックしながら右足でシュートを放つ。これが見事に決まり、チームはリードを奪った。
中盤以降は相手に押し込まれる場面もあったものの、笠柳のスルーパスから生まれた得点を最後まで死守。2年ぶりの出場権を掴み、試合後のピッチには笑顔が弾けた。
10番を背負う笠柳にとって、この選手権は特別だった。去年は2年生ながら出場機会を掴んだが、3回戦でこの日の相手である桐生一に2-3で敗北。先輩たちが項垂れる姿を間近で見てきた。そうした悔しさを噛み締め、持ち味であるドリブル突破に磨きを掛け、今年は絶対的なエースとしてチームを牽引。10月上旬には長崎への入団も決まり、あとは冬の選手権で結果を残すだけだった。
前橋育英vs桐生第一(写真=松尾祐希)
迎えた決勝では鮮やかなスルーパスで決勝弾をお膳立てするだけではなく、突破力とボールキープでも存在感を発揮。大一番で緊張してもおかしくないシュチュエーションだったが、試合中には笑顔が見られるなど、終始楽しみながらボールを蹴り続けた。
実際に笠柳はプレッシャーを感じず、楽しみながらプレーをしていたと振り返る。
「個人として代表などを経験させてもらってきた。余裕と言ったらおかしいですけど、すごく楽しめている感覚があったんです。インターハイの本大会では楽しむ余裕がなくて、良い意味でリラックスができていたし、自分が笑うことでチームメイトもホッとするというか、和ませる効果もあったのかもしれない」
笑顔を絶やさなかった笠柳。そうした振る舞いでチームを支えたが、試合前に去年の卒業生・櫻井辰徳(現・神戸)が助言してくれたことも大きかったという。
「緊張しても仕方ないから笑えよ」
去年の選手権予選はチーム全体に堅さがあり、3回戦で敗れた。過去の失敗を踏まえたメッセージが笠柳の負担を軽くしたのは間違いない。
実際に後輩たちも「決勝で先輩たちが緊張するだろう」と思っていたが、実際に蓋を開けたらまるでそんなことはなかった。
ようやく掴んだ選手権への出場権。本大会でもサッカーを楽しみ、日本一を目指して戦う。笠柳の笑顔か全国大会で何度も見られれば、前橋育英はきっと2度目の戴冠に近づいているはずだ。
(文・写真=松尾祐希)
▽第100回全国高校サッカー選手権群馬予選
第100回全国高校サッカー選手権群馬予選