試合中にテクニカルエリアギリギリまで飛び出し指示を送る場面も(写真=多田哲平)
そうポリシーを語る増嶋コーチだが、難しさを感じることも多いという。
「僕らの時とは時代が違って、選手の感覚も変わってきていますからね。昔は『なにくそ』という気持ちを持つのが当たり前だったけど、今の子たちはそれが通用しないし、同じことをやってもダメ。いかにモチベーションを高く維持させて、良いサッカーをするかっていうアプローチの仕方。そこは僕が学んだことと全然違う。
布(啓一郎/1984~2002年 市立船橋監督)さんの時は『根性!』って感じでしたから(笑)。だから僕が高校生だった時の感覚では教えようとは思っていないです。プロでの経験も通して学んだものを、なるべくそのまま伝えるようにしています」
プロとして長く続けてきた熟練者の生の声は、選手にとって大きな刺激になっているのは間違いない。波多監督は、増嶋コーチ加入の効果をこう語る。
「つい最近まで第一線でやっていたので、やっぱり言葉に説得力がありますよね。理屈じゃないというか、ピッチレベルで実際に経験してきたことを選手たちに伝えてくれているので、そういうところで効果はあるなと」
そして、そんな指導に対して選手たちが反応してくれるのが、増嶋コーチの喜びでもある。
「正直、最初は全然聞いてくれなかったんですよ(笑)。でも、やっぱり毎日行くようになってから、反応を示してくれるようになって。セットプレーで点を取った時にはすごく喜んでくれたり。そこが去年とは確実に違うなと感じていますし、これからも良い関係を築いていきたいです」
選手たちの反応が、指導者としての成長のバロメーターなのかもしれない。波多監督いわく「マスは、経験をチームに落とし込むだけじゃなくて、『指導』というものを吸収しているところ」。そんな指導者として邁進する日々が、増嶋氏の充実感につながっている。
「今、指導者がすごく楽しくて、今後もライセンスを取りながら続けていきたいなと思う。今、市船に来てやりがいをもって指導させてもらっています」
母校をさらなる高みへ導く。市船の黄金期を支えた名CBは新たなチャレンジへ踏み出している。
(文・写真=多田哲平)
▽令和4年度全国高校サッカーインターハイ(総体)千葉予選
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