5バックで守備を固めて挑んできた川越南に対し、ボールは回せるが、なかなか決定機を作れず、前後半の80分ではゴールを決めることが出来なかった。それでも延長戦でFW9黒木隆成(3年)が先制ゴールを決めると、そこから堰を切ったようにゴールが決まり出し、延長戦だけで大量4ゴール。4-0の完勝となった。

 ただ、数字上は4-0の完勝だったが、「川越南の子たちも最後まで集中を切らさずにやっていたので延長までいってしまった。80分ではどっちが勝つかわからなかった」と指揮官も相手の戦いぶりを称えた通り、どちらに転んでもおかしくないゲーム。手放しで喜べる内容ではなかった。

 それでも「最終的に点が取れたので、それは次に繋がる」と、苦しみながらも勝ち切ったことが、次戦の浦和北戦に向けては好材料になったと田中監督。

大宮南の横断幕

 田中監督は選手時代に武南高校で選手権の全国制覇を経験。順天堂大では大学サッカー総理大臣杯優勝に大学インカレ優勝と輝かしい経歴を持つ。そんな経歴を持ちながら、田中監督の周りにはどこか温和な空気が漂う。試合前のミーティングでも真面目な空気から最後は笑いも起こっていた。

 大宮南は普通の公立校でありながら、コロナ前までは180人ほどの部員数がいたという。「コロナになってからは中学生がみんな受験をしないで私学に行くようになってしまった」というが、それでも現在も部員数は約120人と多い。そこには「うちなんかは推薦で採ってないので、3年間誰がレギュラーになるかわからない。今日も本当に真面目に努力した子が、1年の時は(U-16の試合に)出ていなくても3年で出ていたりするので、いくらでもチャンスがある」という強豪校にはない環境や、田中監督の人柄によるところが大きいと想像できる。

 「埼玉にはいい選手がいっぱいいるので、強いチームに行きたいというのもわかりますけど、あそこに行って活躍したいという選手が増えてくると公立高校も盛り上がりますよね。私学に行って3年間出れない子も公立に来ればエースになれるかもしれない。うちの10番(MF10石井恭翔(3年))も私学から誘いもあった中で家が近いということでうちに来てくれて、1年からずっと試合に出ていますし、本人は活躍出来て楽しんでくれていると思います。

 特別なにがある学校という訳ではないですが、みんな楽しそうに学校生活を送っている。そういう校風です。今、公立高校は本当に厳しいですけど、やっぱり公立高校に行きたいと思っている子たちに、そういう姿を見せられればと思います。目標はベスト8。あそこまで行けばテレビにも映るし、OBもスタジアムに応援に来てくれる。そこを目標に一個一個積み重ねるだけです」

マネージャーが願いを込めて折った鶴

 選手の確保や環境面など苦戦の続く公立高校だが、その中でも大宮南のように、公立校ならではの高校サッカーライフを送れる環境が埼玉のサッカーを支えているのかもしれない。普通の公立校だからこそ味わえる充実感がそこにはある。

 「埼玉はレベルが非常に拮抗しているので、最近は昌平が全国優勝もして抜け出したかなという感じもしますが、それでも選手権で絶対に昌平が優勝できるかと言ったらそうではない。浦和(レッズユース)と大宮(アルディージャU-18)が出来た時から一番上手い子たちはそこに行く訳ですから、その割には埼玉の高校サッカーはよくやっていると思います。選手権は60回大会から全国制覇から離れてしまっていますが、埼玉は特定の1チームだけではなくて、どこに行っても情熱を持った指導者が沢山います」

 埼玉の高校サッカーを、そして公立高校を盛り上げる。埼玉県サッカー協会で技術委員長を務めている田中監督も指導者としてそこに情熱を傾けている。

 選手権でひとつでも多く勝つことで、公立校でサッカーを楽しむという選択肢をこれから高校を選ぶ子供たちに示すことができる。大宮南の選手権での過去最高成績は県ベスト8。まずはそこが目標。次戦は20日、浦和北との公立校対決だ。

(文・写真=会田健司)

▽第103回全国高校サッカー選手権埼玉予選
第103回全国高校サッカー選手権埼玉予選