富山第一の大塚監督インタビュー後編。前編ではチーム作りの基本方針等をお話しいただきました。後編は、さらにもう一歩踏み込みます。自身が「サッカーは楽しい」と目覚めたきっかけとは?欧州の理論も取り入れた指導方法は「1人の選手」としてだけでなく、「1人の高校生」としても成長できるものでした。

――チーム運営にも工夫を凝らしているそうですね。

 毎年、「ダイヤモンドナイン」と呼ぶチームの目標を設定します。10人ほどのグループに分かれ、日本一になるためになにが必要かを9つ考え、優先順位を決めてダイヤモンド形に並べます。各グループにプレゼンテーションをさせ、投票によって新チームのダイヤモンドナインを決定します。正解はありませんが、理由を考えて議論しなければなりません。優勝した今回のチームは「感謝」を一番上に、「勝つ」を一番下に置いていました。

 チーム状態が落ちてきた時などに選手に要望や不満など言いたいことを言わせたりもします。アルビレックス新潟シンガポールで監督をしていた時、選手から「サンダル履きでの移動を許してほしい」という要望がでたことがありました。高温多湿の気候もあってのことですが、それまでは禁止していました。

「けがのリスクも考えて規則にしている」と伝えたうえで許したところ、試合に勝てるようになりました(笑)。
 「こうしたい」という思いがあれば言わせて、こちらも考えを伝える。そうやって選手にも責任をもたせることが、自主性を育てることにもつながると思います。戦術的な意見も出てきますよ。

――同時にチームに対する帰属意識も大切にしているそうですね。

 チームのエンブレムをつくりました。また、英国プレミアリーグ・リバプールのホームスタジアムにある「THIS IS ANFIELD」の飾り板にならって「THIS IS TOMIICHI」と記したボードを作成しました。試合の時に選手はこれに触れ、仲間や家族、学校関係者をはじめ多くの人が支えてくれていることや、それに対する感謝に想いを寄せ、負けられないとの気持ちを高めて臨みます。

――「急がばまわれ」で、そういったプロセスを重んじる取り組みが今回の優勝につながったのですね。

 選手にはいつも、試合の流れは自分たちでつくるんだと言い続けてきました。さまざまな取り組みや経験を通じて考える力や理解度が高まり、試合で実践することができたのだと捉えています。
 中でも決勝で1点差に迫る1点目のゴールは、選手たちが考えて奪ったもの。星稜のFKでしたが、点差を考えて前線に3人残してカウンターを狙っていました。同点のPKを取ったシーンも残り時間が少ないにもかかわらず状況をみて足もとでつないで崩そうと試みたのが成功した。本当にあいつらすごいなと思います。勝つか負けるかは時の運にも左右されます。勝敗が入れ替わっていてもおかしくありませんでしたが、やってきたことは間違っていなかったと感じています。いつも勝てるわけではありませんが、これまで通りの取り組みを続けていきたいと思っています。

――自宅から通学する生徒だけで全国制覇を成し遂げたことも注目されましたね。

 部活動としての中心は人づくりです。家族や地域の人とのかかわりの中で生徒は育ちます。そばに親身になってくれる大人がいることは大事なことで、両親の支えはやはり大きいのではないでしょうか。全国から選手をスカウトする強化方法を否定はしません。ただ、試合に出られないまま才能を埋もれさせてしまう者が少なくないことが残念です。Jクラブのユースにも同じことが言えると思います。英国プレミアリーグ各クラブのアカデミーは入学を自宅から通える子供に限っています。仏国でも寄宿舎方式から親元から通う方式に移行してきているそうです。

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