選手を集めミーティングをする長崎総科大付・小嶺忠敏監督(写真=藤原裕久)
高校サッカー界の重鎮・長崎総科大附の小嶺忠敏監督。国見では戦後最多タイとなる6度の選手権制覇を果たすなど、言わずと知れた名将だ。選手権長崎予選決勝では昨年の決勝で0-1と敗れた創成館に2-0で快勝し、全国切符を獲得。記念すべき100回大会を前に、選手権や国立競技場への想いなどをうかがった。
ーー長く高校サッカーで指導者を続けていますが、ここまで指導を続けられた理由というのは何だと思いますか?
みんながもう辞めろよと、おまえが最長老になってしまったじゃないかと、そうおっしゃる先輩方もたくさんいらっしゃるんですよ。私も本心としてはね、明日にでも辞めたいというのはありますよ、四捨五入すればもう80歳になるわけですから。その年齢までずっとやりたいとは思っていないんですよ。しかしね、今ここにいる子どもたちを放って辞められるのかと。私を信頼してここまで来てくれているわけですから、それを放っていくことは私の性格上はできない。
それに私の父は戦争で37歳までしか生きられなくて、私はそのぶんも一生懸命に人生を生きていかなければと思っているんです。その中で何ができるかとなると、私にはサッカーと教育しかない。だから大学で授業も担当していますし、こうしてサッカーもやっているわけです。私は54年の指導者人生の中で早朝練習に遅れたことがないんですが、体を張って、生涯を閉じるまで全力を尽くす。そういう姿が子どもたちの人生にとって大きな教育になるんじゃないかと思っているんです。僕はそういう教育者でありたいと思っているので、「あのジジイがいつまでも…」と思われるかもしれないですが(笑)、私はそんなに簡単には辞められないと思っています。
ーー今年の全国高校サッカー選手権では8年ぶりに決勝戦の舞台が国立競技場になりますが、国立競技場とは小嶺監督にとってどんな存在でしょうか?
2つの意味があると思いますね。1つは、国立は選手をうまくする場所なんですよ。大したシュートじゃなくても、一本打つだけで5万人の観客が歓声をあげる。そうすると選手は「俺、うまくなったのかな」と錯覚して、(雰囲気に)乗せられたようにうまくなっていくんです。もう1つは、国立でサッカーができるというのは高校サッカーでは大きな夢ということですね。サッカーファンにとっても大きな夢。全国四千校の頂点を争うチームだけが立てる場所ですからね。そういう思いがありますよ。
ーーでは選手権とはどんな場所と言えるでしょうか?
夢の夢の夢の夢ですね(笑)。ましてや今回は新国立競技場で決勝戦があるわけで、そこは立つだけで鳥肌が立つような場所ですし、そこに立てばもう感動しかないですよ。あそこで戦うことができれば、明日、指導者を終わっても良いとすら思いますね(笑)。
ーー国見高校時代の教え子である大久保嘉人選手が現役を引退されましたが、その点についてはどんな思いがありますか?
中学校1年生の時から見ていたんですが、高校に入ったときは体が小さかった。だが私は動物的というのかな、そういう感覚的なものを持っている選手だと思っていたんです。あるとき教え子の一人が「何で、先生はあいつを起用するんですか。体が小さくて簡単に弾き飛ばされているじゃないですか」と言うんですね。でも私はその教え子に言ったんですよ。「あいつには動物的な感覚がある。使えば使うほど良くなる可能性がある。今はまだ体が小さいから弾き飛ばされているだけだ」と。
可能性がある子供を育てられるかは、指導者が我慢できるかどうか、その可能性を見出せるかどうか。私はそれこそが指導者に必要な能力だと思うんですね。自分にそれがあるかはわらかないが、あいつは素晴らしい成長をしてくれた選手で、私にとっての宝です。長い指導者生活の中でそういう宝のような選手が何人もいます。だからいつ監督を辞めても良いような気持ちになるんだけどね(笑)。
(文・写真=藤原裕久)