準優勝に終わり肩を落とす浦和南
第100回全国高校サッカー選手権埼玉予選最終日は14日、埼玉スタジアムで決勝が行われ、公立校で唯一ベスト4に残り15度目のファイナルに駆け上がった浦和南は、西武台に延長の末0-1で惜敗。3大会ぶり10度目の優勝と推薦出場を数え、13度目の全国選手権出場はならなかった。
表彰式を終え、ドレッシングルームへ引き揚げてきた時、野崎正治監督は泣いていた。間もなく取材エリアに現れると「内容で押されるのは予想していたが、途中まではシナリオ通りに進んでいた。PK戦で勝つというシナリオが見えていただけに……」とようやく声を振り絞った。うつむきながら小声で答える姿にショックの大きさが伝わってきた。
前半はボール支配率で劣り、自陣に進入される頻度も高く、西武台の持ち味であるスピード豊かなサイド攻撃を仕掛けられた。しかし、初戦の2回戦から4試合連続無失点の堅ろうは少しも慌てない。鋭いクロスにも、際どいシュートに対しても、素早く体を寄せてブロックしゴールを割らせなかった。
浦和南は主将のCB坪井優太、GK黒田海渡(ともに3年)を中心とした守備の達人ぞろい。こういう展開はお手のものなのだ。
前半はむしろ、押され気味の“赤き血のイレブン”のほうが、決定打の数では多かった。
15分、MF宇山友貴(3年)の蹴った左CKをニアサイドから、MF坂本空翔(3年)が放ったヘッドはバーをたたいた惜しい一撃。19分にDF井上喬介(3年)の右ロングスローをきっかけに、MF奥村青葉(3年)が強打をお見舞いしたが、DFに阻止され、直後にも敵のクリアボールに反応したエースのMF大里直也(3年)の左足ボレーはわずかにバーを越えていった。
追加タイムにはDF戸部悠太(3年)が40メートル超の右FKを直接狙い、高校生離れした弾道が西武台ゴールを襲ったが、GKにパンチングで防御された。
しかしこの後は大きな得点機が訪れず、後半と延長戦の30分間で放ったシュートは1本しかない。それでも持久戦に耐え、PK戦が見えてきた延長後半7分だった。右クロスからのヘディングシュートで今大会初失点、シナリオが崩れた。
「失点するまでは相手の長所であるカウンターとセットプレーを消せたが、あの失点は自分たちのどこかに隙があった。0-0からのPK戦まで、もう少しだったのに」。
坪井は目を腫らし、ずっと鼻をすすりながら悔しさをにじませた。
キャプテンの浦和南CB坪井優太
西武台とは4月の関東高校大会予選準々決勝で0-1の惜敗、高円宮杯U-18埼玉県S1リーグでは5月の初対戦が0-0、9月は0-3で敗れ、今季は1度も勝てなかった。
しかし西武台は誰もが浦和南に敬意を表していた。守屋保監督は「野崎さんがいなかったら(埼玉で)勝ちたいとはそれほど思わなかった。(組み合わせ表の)反対側からは浦和南が決勝に進んでくると予想していたが、来てほしくなかった、できれば早く負けてほしかった。怖い相手ですからね」と、こんな表現でリスペクトする。
主将のDF原田蓮斗(3年)は「体を張った守りが徹底していて、ゴール前に(パスが)入らなかった」と語り、決勝点を挙げたDF安木颯汰(3年)も「守備の堅さもそうだけど、攻撃ではセットプレーが怖かった」と敗者をたたえた。
母校の監督に就任して9年目。私学全盛の埼玉にあって、全国高校選手権と全国高校総体に1度ずつ出場させた野崎監督の手腕は一流だ。前回まで2年連続で公立勢が8強すら逃し、次々と弱小だった私学が力を付け、タイトル争いの寡占状態を形成するのが埼玉の現状だ。
野崎監督は「こんなに悔しい負けは初めてだった」と言った。それ故の涙だったが、「選手を褒めたことなんてないが、決勝まで頑張ってたどり着いた彼らの労をねぎらいたいし、感謝もしたい。厳しい練習を課しながら、伝統校の魂を言い聞かせ、植え付けました」と述べた。
グラウンドに出ると、ここは偉大な先代たちが汗を流して栄光を築き上げた場所なんだ-と言って、浦和南のユニホームを着る誇りと責任の重さを説いてきたそうだ。
野崎監督はそれでも、特待生制度などで中学生の好人材を獲得できる私学との限界を感じるという。「ますます公立と私立の格差は広がると思う。私立と同じことをやっていても勝てないので、いろんな工夫をしながら何とか意地を見せたい」と“赤き血のイレブン”の伝統を受け継ぐ要人は、早速新チームの強化に心血を注ぐ覚悟を示した。
(文=河野正)
▽第100回全国高校サッカー選手権埼玉予選
第100回全国高校サッカー選手権埼玉予選