帝京を率いる日比威監督

 1月6日、NEW BALANCE CUP 2022 IN TOKINOSUMIKA(通称・裏選手権)の決勝トーナメント決勝、昌平(埼玉)対帝京(東京)が静岡県の時之栖スポーツセンター裾野グラウンドで行われた。試合は天候不良により、30分1本にレギュレーションが変更。雪の中、行われた決勝は両校譲らず0-0のまま30分1本を終え両校優勝で大会を終えた。

 試合後、帝京の日比威監督は「年末からさらにケガ人がまた増えて、FW伊藤(聡太)もいないし何人もいないけどその分、『じゃあ俺らがやってやろうじゃないか!』って選手が出てきたのは良かったですよね。選手権の試合もそうだし、怪我人が多くなった時にパッと入った選手が全くできないんじゃなくて、"それじゃダメなんだ"と僕らよりも彼らが気付いてやろうとしている事が評価に繋がってます」とコメントした。

 帝京は年末の横山杯に続き今大会と、かなりの連戦をこなしてきた。ケガ人がでてしまったものの強豪チームと多くの強化試合を行いNEW BALANCE CUPでは見事に優勝を果たした。「帝京にとっては意味のある有意義な40日間ぐらいだった」と日比監督は手応えを口にした。

 「蹴って走って、強くてバチバチやる。縦に速いサッカー」という往年の帝京サッカーから、今の時代に合ったモダンなサッカーを構築している新しい帝京。「7年前に来た時には"まだ縦に速いな"と」と就任当時の印象をそう話した日比監督。「自分が好んで来てもらった選手が存分に発揮してくれて、スタッフ側と選手側の擦り合わせが凄く上手くいきだしたこの5年間」と同じ目標を持ったスタッフと選手が積み上げてきた結果が今のチームの基盤となっている。

 「ワンタッチで崩しにかかったり、流れるような裏取りをしたり、ポゼッションをやりながらも"時には縦にも行くよ"というのが"帝京らしい"」と新たな"帝京らしさ"が明確に確立されてきたことで「監督になってからTリーグで3年間苦しい思いをしてやっとの思いでプリンスにいった。そしてプリンスももう3年経つ。本来は去年3位以内に入りたかったんですけど、減っては来ているけどまだ取りこぼしが多くて。今年に関しては勝点をしっかり取って3位に潜り込みたい。やれるだけの力はあると思うので」と日比監督が話したように、今年は本格的にプレミア昇格を視野に捉えている。

 昨シーズン、川崎フロンターレU-18、前橋育英、桐生一とプリンス関東からプレミアリーグに3チームが昇格を決めたことでもわかるように、レベルの高いプリンスリーグ関東を勝ち抜くのは簡単ではない。「プリンスで得られる経験は財産です。お金を払ってもそこのリーグには入れないですからね」と日比監督もプリンスでライバルたちと切磋琢磨できる環境がチームの強化に与える影響は大きいと話す。

 さらに「それは"今までの先輩が作り上げて来てくれた"ってことをこの子達も理解しないといけないし、責任と義務の関係も出てきます。この舞台を与えてもらった以上はこの子達もやらなければいけない。こういう積み重ねが伝統になっていくんだと思います」と日比監督は今まさに新しい伝統を作っている事を実感している。

 「半世紀前から騒がれている学校なので」と、伝統校という事で周りからの期待やプレッシャーも大きい中、Tリーグから始まった日比監督の挑戦。強い帝京を復活させる方法として新しい帝京を作り上げ、プリンス関東でライバルチームたちと切磋琢磨しながら昨年は10年ぶりにインターハイ出場も果たした。「帰るべきところに帰りたい」と話した日比監督の"帰る"というワードからも帝京というチームの伝統や歴史の重さが伝わってくる。

 今のチームには技術や能力の高い選手たちが揃っている。日比監督、スタッフやOBの方の取り組みが花を咲かせ、それに呼応して選手たちも集まってきているのだ。「20年30年前のチームとは全く違うし、僕らの時代よりこの子達の方が全然うまいですから。この子達の持っている申し分ない力を発揮出来るように、こちらが引き出さないといけない。でも帝京には優秀なスタッフが沢山いますから、そこに関しては負ける気がしないです」と、伝統校だからこその底力があると日比監督は話した。

 中田、木島を擁し決勝まで駆け上がった1998年の選手権。本山、金古を擁する東福岡との雪の中の決勝戦。プリンス関東で戦うライバル昌平とのこの日の裏選手権決勝は、試合前に急に降り出した雪によってあの日と同じようにみるみる白く染められていった。ラインが見えなくなるほどの雪で真っ白なピッチで躍動するこの日の帝京イレブンの姿は、選手権の舞台で当たり前のように勝ち上がる、強い帝京がもうすぐ帰ってくると連想させてくれるものだった。第70回大会で帝京を優勝に導いたキャプテンでもある日比監督の挑戦はここからが本番だ。

 (文・写真=会田健司)

▽2021年度裏選手権
2021年度裏選手権