「サッカーだけじゃなくて、やっぱり人間力の育成」をテーマに掲げる渡邊監督にとって、この選手権は単なる試合ではなかった。ダウンも含め、試合後も責任を持って行動する3年生の姿を見て、「最後は少し成長させれたかな」と、安堵の念も滲ませる。

　厚木北のサッカーは、近年、手応えを掴みながらも「さあ、これから」という時に、なぜか勢いを失ってしまうという「上昇気流に乗れない」課題を抱えている。まるで一瞬の輝きが、すぐに影へと退いてしまうかのように。だが、渡邊監督がサッカーを「ツール」として伝えようとした「自覚・責任・感謝」の心は、必ずや彼らの次のステージへと繋がっていくはずだ。

　敗戦の悔しさ、心残り、そして確かな希望。渡邊監督の視線は、グラウンドの外、「社会に出て可愛がられる人間になってもらいたい」という、人生という名の新たなピッチを見据えていた。彼らの「百者蹴一心」の魂は、この敗戦を糧に、次の世代へと受け継がれていく。このフィナーレは、終わりではなく、新しい物語の始まりを告げるファンファーレなのだ。

(文・写真＝西山和広)