川崎市立幸イレブン(写真=西山和広)

 ドラマの幕が上がったのは、最後のキッカーを迎えた瞬間だった。相手の5本目を止めれば勝利。外せば続く緊張。川崎市立幸のゴールを守るのは、リーグ戦では出番が少なかった3年生の守護神・木村郁馬だった。鈴木監督がベンチから指で示した方向へ、彼は迷いなく飛んだ。「先生が指差したから信じて飛んだ。そしたら止まったんです」と試合後、彼は笑顔を見せながら誇らしげに語った。

 そのセーブが決まった瞬間、チーム全員が一斉に駆け出す。鈴木監督は歓声を上げ、選手たちは笑顔で抱き合った。ピッチに横たわったのは安堵と達成感、そして100分を超える時間を耐え抜いた者だけが味わえる昂揚だった。

「リーグ戦では降格も経験した。でもあの厳しい日常が、この我慢強さにつながった。今日は本当に3年間で一番いいゲームをしてくれたと思います」

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▽第104回全国高校サッカー選手権神奈川予選
第104回全国高校サッカー選手権神奈川予選