左からDF鈴木剛、GK熊倉匠(写真=オフィシャルサポート)

 山梨学院高等学校(山梨)のキャプテンで、GKの熊倉匠(3年)がひときわ輝いた。

 110分間の戦いを終えて、2対2。何度か好機をつかみながら決めきれず、引き分けに持ち込まれた感のある優勝候補筆頭の青森山田(青森)に対し、土俵際でもちこたえた山梨学院の表情は心なしか明るかった。

 公式記録を参考にすれば、青森山田のシュート数は24本。山梨学院のそれは7本だった。トドメを刺しきれなかった――。青森山田の選手たちは、そんな心境のまま、延長後半の終了のホイッスルを聞いたであろうことは想像に難くない。

 PK戦にもつれ込んだ瞬間、勝利への追い風が山梨学院に吹いたような気がする。

 なぜなら、GK熊倉はPK戦にめっぽう強い。3回戦の藤枝明誠(静岡)と準決勝の帝京長岡(新潟)で、その真価をいかんなく発揮し、チームを勝利に導いた。こうした成功体験が山梨学院にプラスに働くのではないか、と思われたからだ。

 事実、ゴール前に立ちはだかる守護神は、次のように自信をのぞかせていた。

 「泣いても笑っても最後。みんなに“外してもいいぞ、思いきってけってこい。あとは自分が守るから”と伝えた。そうしたら、みんなが笑顔になって(いい意味で)リラックスできたんじゃないかなと思う」

 PK戦になったとき「今日は“自分の日だな”と感じた」とも語っている。失敗を恐れるのではなく、成功をイメージできるのは明らかにGK熊倉の強みだろう。先にける青森山田のキャプテン、藤原優大(3年)には決められたものの、2人目の安斎颯馬(3年)のPKを見事に止めてみせた。

 「どっちにけるか、最後の最後まで我慢して、体の向きからこっちかなと思って(左に)跳んだ。それが当たった」(熊倉)

 小さくガッツポーズを見せた熊倉、頭を抱えた安斎。明暗を分けた二人は今でこそチームは異なるが、中学時代にFC東京U-15深川で切磋琢磨した仲だ。選手権優勝にかける思いはお互いに並々ならぬものがあった。

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▽第99回全国高校サッカー選手権
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