こうした“奇策”の着想を、長谷川監督はどこから得たのだろうか。

 「神奈川大学で指導していたとき、早稲田大学のCBに優れたビルドアッパーがいて、その選手から縦パスやら、サイドチェンジのパスやらが素晴らしく、ゲームをコントロールされていた。そこをどうやって抑え込むか。そのときに考えた作戦だったが、今回の決勝で使えるんじゃないかと思った」

 試合の入りを重視した長谷川監督の“奇策“がうまくはまったこともあって、山梨学院が12分に先制点を奪う。チームを勇気づける意味で、「この1点は本当に大きかった」と振り返っている。

 「総合力を見れば、青森山田にかなうチームはいない。1対1のところで後手を踏まないように自分たちも高い位置でプレーしたかったけれど、徐々に押し返されてしまった。それでも大会を通じてゴール前で自由にシュートを打たせない守備だったり、簡単に前を向かせない守備だったり、相手との距離感をうまくコントロールしながら守ることができていたと思う」(長谷川監督)

 就任2年目にして大願成就を果たした長谷川監督は「まったく実感はない」と笑顔を浮かべつつ、こう続けている。

 「私自身、浮き足立つこともなく、背伸びをすることもなく、今、必要なことに対して落ち着いて取り組むことができたと感じている」

 相手チームの緻密な分析と、そこから導き出されたゲーム戦略の実践。強豪校を次々に破って、3962校の頂点に立った山梨学院の強さの理由がそこにある。

(文=小室功)

▽第99回全国高校サッカー選手権
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