南健司監督(写真=松尾祐希)

 インターハイ出場13回、選手権出場18回。長きに渡って、立正大淞南は山陰地方の高校サッカーを牽引している強豪校だ。強烈な個性を持つ選手たちが、毎年のように全国舞台で可能性を示してきた。なぜ、彼らは3年間で大きく成長を遂げていくのか。南健司監督に子供たちの向き合い方や、指導論について話を伺った。

――指導方法について、様々な考え方があります。南健司監督はどのように考えていらっしゃいますか?

 答えを言わない、教え過ぎない。この指導方針が現在の主流になりつつあります。ただ、僕はその考え方と異なるかもしれません。例えば、新入社員として普通の会社でも新人研修があります。挨拶の仕方、タクシーやエレベーターの乗り方。それらを最初から理解しているかというと、教えてもらわないとできません。なので、トップダウンで詰め込む作業は必要です。何故、詰め込みが重要かというと、子供たちには1年7ヶ月しかないからなんです。高校生活は3年間しかありませんが、選手権に出る48校以外の約4000校の生徒は1年7ヶ月で最高学年を迎えます。高校2年生の選手権予選で負けた場合、その年の10月で先輩たちが卒業してしまうので、最終学年としての立ち振る舞いが求められます。早く大人になる人数が多ければ、全国舞台で勝つ確率が高くなるので、私たちが生徒を早く大人に育てなければいけませんが、1年7ヶ月では自分の力で大人になる可能性は少ないんです。いかに1年7ヶ月で生徒を成長させるのか。彼らに「最高学年になったので大人になりましょう」と急に求めても、生徒たちは実行できません。だから、私は会社と一緒だと思うんです。テーブルマナーも最初は分かりませんが、教えてもらえれば理解できます。自分自身もテーブルマナーが分からなかったので、自費で3000円を払って学びに行って初めて理解しました。大人は自分から聞いて学習する機会があるかもしれませんが、高校生にはその術が限られています。分からないことは分からない。そうであれば、僕たちが教えるしかありません。1年7ヶ月の期間である程度の事を詰め込んで上げるのは大事なんです。例えば、青森山田は礼儀作法が徹底されています。それは黒田剛監督が築き上げた伝統です。もし、黒田監督が他のチームに移ったとしても、サッカーの実力は別として、オフザピッチでは青森山田のようにきちんとできる集団になっているはずです。やっぱり、子供たちは教えてもらわないとできません。

【次のページ】 教え込み過ぎる事で、考える力は奪われないのでしょうか?