――教え込み過ぎる事で、考える力は奪われないのでしょうか?
それはないと思います。一度教えれば、覚えていますし、僕たちも次のアプローチの仕方を考えます。例えば、大阪にある中体連のチーム出身の選手は伝統的にシュートやキックがとてつもなく上手いんです。それは、どのポジションでも変わりません。CBも前線に良いボールを出せますし、FWはすごい得点力を持っています。中盤の選手も驚くようなボールを蹴れます。「何故だろう?」と思って調べたのですが、その中体連のチームではゴールの後ろからボールを出して、シュートを打つ練習を毎日30分以上やっていたんです。ただ、その練習がキックの基礎になっていたわけではないんです。子供たちがノリで滅茶苦茶な球を出していて、常に良い状態からボールを蹴っていませんでした。変なボールをジャンピングボレーで打ったりしていたぐらいなんです。なので、僕が次は止めてシュートを打つ技術を教えたら、みんなに広まっていきました。やっぱり、教えてもらっていないプレーを実行するのは難しいんです。ラーメン屋で働き始めたばかりの人にいきなり「スープを作れ」と言っても作れませんよね。教えてもらって初めてできますし、「これを加えたらどうなるんだろう」という好奇心から工夫が生まれます。「ベースのスープをちょっと辛くしたらどうだろう」と思って、味が変わっていきますよね。ただ、辛いラーメンを作るにしてもベースは変わらないんです。何も教えてもらっていなければ、1人前に到達するまでの時間はとてつもなく掛かります。自分の高校時代に授業でハンドボールがあったのですが、僕はいまいち要領をつかめなかったんです。でも、ある先生に「このフェイントがあれば、ハンドボールの理解が深まるよ」という技術を教えてもらうと、劇的に変わりました。ベースになる知識や技術を手っ取り早く教えてもらった方が、楽しめる可能性が高いんですよね。最近、「サッカーは進化している」と言いますが、それも教えないと分かりません。なので、僕は教え過ぎることに問題ないと思っています。私は大昔から唱えているのですが、左サイドから右利きの選手がシザースで突破できる絶対的な形があります。実際に試合で彼を見た時に、周りの人から「100発100中で抜くよね」と言っていただけますが、それは教えたからできるんですよね。やっぱり、教えるのは楽しいんです。僕自身も色んな人の経験談を聞くことが好きですしね。そうした姿勢はすごく大事だと思います。
(取材・写真=松尾祐希)