京都橘の唐橋亜弥マネージャー(3年)
プリンスリーグ関西最終節。阪南大高戦に2-0で勝利した京都橘のベンチには、選手たちの写真を撮りながらコーチと勝利のグータッチをする一人のマネージャーの姿があった。唐橋亜弥(からはし つぐみ)さんはこの冬でサッカー部を引退する3年生。中学時代は卓球部に所属し、選手としてプレーする側だったが、高校に入り京都橘サッカー部にマネージャーとして入部した。
もともと京都橘大学に行きたくて京都橘を選んだという唐橋さんは当時3年生だった先輩に誘われてサッカー部に体験に行った。「行ってみたら凄い自分に合っていると思ってここにしようと思いました」と入部を決断。
京都橘サッカー部にはマネージャーがご飯を作り、練習後30分以内に食べる“部飯”という活動があった。唐橋さんも1年生の時からこの部飯を作ってきたが、コロナ禍という事もあり部飯も出来なくなってしまう。
「マネージャーが勝利に直接かかわる事は出来ないけど、みんなで一つになって戦いたくて部飯を作っていました。選手の体付きを見ていても"大きくなったな"と思って本当に嬉しかったし、『ご馳走様!』とか『ありがとう!』って言ってくれるので本当にやりがいがあったんです。でも部飯がなくなってどうやったらチームに貢献出来るのかわからなくなってしまった」と悩んだ唐橋さん。
唐橋さんが2年生の時は一学年下のマネージャーがおらず、先輩が引退してからは一人でマネージャーの仕事をこなす時期もあったが、部飯が出来ないならと「戦術的なことはわからないけど、選手たちは試合中に言われたことをメモ出来ないし、忘れてしまうかもしれないので」と、試合中にコーチや監督が選手に伝えたことをメモして、試合後に選手に送るという事をやり始めた。
「最初はその場で聞きながらメモしていたんですけど、私は書くのが遅いので全然追い付かなくて。それでケータイを固定して録音して、家に帰ってから文字に起こして選手に送るようにしました」とやりながら改善させていった。試合の写真を撮って選手に送り、コーチや監督の話している事も試合後に選手に送る。とんでもない仕事量だが「ちょっとでも勝利に繋がることをしたい」という一心でそれもずっと続けてきた。
今年、京都橘は残念ながら選手権で全国に行くことが出来なかったが、プリンス最終戦を3年生だけで戦い、見事に勝利し有終の美を飾った。唐橋さんは「色々あった3年間で、長いようで短いような3年間だったんですけど、中学の時は選手の側だったので、人を支える側になってみて、人を支えるっていう事がどんなに大変かってことを学ばせてもらいました。やっぱり私は支える側が好きで、負けた時に『ごめんな!』って選手が謝ってくれたり、インターハイに負けた時は『冬は絶対全国に連れて行くから!』って泣きながら言ってくれたり。今日も最後3年生だけでやれて、みんなで勝つ事が出来て、本当に橘に来てマネージャーをやって良かったなと思います。本当に感謝です」と3年間を振り返った。
「自分中心じゃなくて、誰かのために何かをするっていう事をずっと考えてきたので、そういう部分では凄く成長できたと思います。選手がどうしたら喜ぶか、選手がどうしたら試合にスムーズに入れるか、それを考えることで人を見る視野が広くなって、どこで誰が何をしているのかを見ることが出来るようになった」と唐橋さんは自身の成長を実感している。
現在は唐橋さんの他に1年生のマネージャーが2人。その郷田亜美さんと内田葵さんに向けては「1年しか先輩がいない状態でやって凄い色々詰め込んでしまったところはあるんですけど、これから二人がマネージャーの中の最高学年になるので、きっとあの二人なら大丈夫だと私は信じています。先輩とも上手くコミュニケーションを取れると思うし、"大丈夫!"って気持ちです」とメッセージを送った。
「選手はコーチや監督に正解を教えてもらえたりするけど、マネージャーは受け継がれていくものなので、正解がわからない事も多いんです。選手の為にと思ってやったことが裏目に出てしまう事もあって、凄く悩みました」と話してくれた唐橋さんからは、これまで悩みながら、失敗もしながら、それでもチームの為に何かできることはないかと試行錯誤を重ねてきたんだと伝わってきた。それを3年間やり通し、唐橋さんは最後の試合を晴れやかな表情で終えた。
(文・写真=会田健司)