三冨りりからの活躍にチームの浮沈が懸かる(写真=西森彰)

 昨年度のインターハイ、そして高校女子サッカー選手権を制したのが、鹿児島の神村学園だ。3月25日から27日にかけて福岡県で開催されたサニックス杯女子サッカー大会では5戦を行って、2勝1敗2分け(2PK負け)、4位に終わった。追手門学院には2日続けてのPK負け。同じ九州地区のライバル・秀岳館にも競り負けた。

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 それでも、寺師勇太監督は「もっとひどい状況も考えていました。新人戦にも出られず、今季のチームは立ち上げで大きく遅れていましたから。でも、目も当てられないような内容ではなかった」と、すっきりした表情で現状を受け入れた。

 昨季の神村学園には、MF愛川陽菜、DF神水流琴望ら、1年から主力を務めた選手をはじめ、センターラインには最上級生が揃っていた。公式戦はもちろん、オープントーナメントでも「ほとんど負けなかったと思う」と寺師監督。猛威を振るう新型コロナの感染拡大で活動ができない他の地域に比べれば、スケジュール面で大きな変更を強いられることもなかった。

 これまで何度もはじき返されてきた藤枝順心の壁を乗り越えて、インターハイを制しても、指揮官は喜びも半ばという表情だった。「今季の前半は、相対的にアドバンテージがあった。今日のゲームを、冬に向けての第一歩にしなければいけない」と口にした。

 真価を問われた全日本高校女子サッカー選手権では、常盤木学園、藤枝順心、日ノ本学園、そして神村と、伝統校が4強に顔を揃えた。「自分が監督になってから、なかなか常盤木と当たらなかったから、ぜひ、対戦したいと思っていた。試合後、常盤木の阿部由晴先生が『おめでとう!』と声をかけてくださって、本当に嬉しかった」(寺師監督)。常盤木を破って決勝に進んだ神村は、日ノ本に3対0で勝利し、夏冬二冠に輝いた。

 愛川らが卒業し、新チームのセンターラインは、昨季からごっそり入れ替わった。さらに、今季はこちらがコロナの影響を受けて、新人戦に出場が叶わず、試合勘が失われた。マイナビ仙台レディースに練習試合で胸を借りるなどしたものの、まだまだ手探りの状態。前年の「二冠」という称号だけを見れば「追いかけた昨季、追いかけられる今季」だが、実際は逆で「追いかけられた昨季、追いかける今季」なのだ。

 U-17女子代表に選出されたMF三冨りりか(新2年)をはじめ、MF黒木愛理(新3年)、MF黒岩沙羽(新2年)ら昨季を経験している選手は、チームの浮沈を任される存在になり、自覚が出てきた。さらに、FW久保百果(新1年)やDF児玉一穂(新1年)など、今後が楽しみな選手も入ってきている。

 試合経験の少なさもあって、攻守の切り替えは例年に比べて未完成の部分が大きい。それでも、意図した崩しを狙う姿勢は見られたし、飲水タイムにさっと給水を済ませ、ポジションに戻って集中を切らさない、相手の一歩先を行くスタイルは健在だった。

 「そうした『神村イズム』みたいなものは、今季のチームにも伝わっているんじゃないかなと思います。初めは苦労すると予想していましたが、それだけ伸びしろも大きいと思います。連覇とか上を見過ぎないで、しっかりと地に足を着けて目の前の1試合、1試合に取り組んでいきたいと思います」(寺師監督)

 スタートの出遅れを取り戻すべく、神村の追撃が、今、始まる。

(文・写真=西森彰)