選手権という舞台特有の緊張感、「若干しました」と認めながらも、後半には「いい感じでボールに触れた」と語る彼の言葉からは、試合の中で自らを律し、ペースを取り戻すストライカーの精神的タフネスが垣間見える。

 そして、今の彼らを突き動かすのは、尽きることのない「渇望」だ。「課題はやっぱ決めきるとこ。もっと決めるべきボールを決める」。さらに、「(トーナメントの)山が日藤とか桐蔭学園とか、強い相手が多いので。でも勝たないと全国行けないじゃないですか。だから頑張ります」と、その瞳は、神奈川の強豪を薙ぎ倒し、全国への扉を開くことだけを見据えている。


 彼のゴールの輝きは、単なる2点目の記録ではない。それは、不完全な勝利の中にあって、橘が全国の舞台にたどり着くために、絶対的に必要な"10番の特権"、すなわち「決定力」と「閃き」を体現した、希望の光だった。彼のエレガントなプレーと、高みへの純粋な情熱が、このチームをさらに研ぎ澄ませていくはずだ。

(文・写真=西山和広)

▽第104回全国高校サッカー選手権神奈川予選
第104回全国高校サッカー選手権神奈川予選