読売テレビ平松翔馬アナウンサー
今年で記念すべき第100回を迎える全国高校サッカー選手権大会。その大阪予選を1回戦から取材し続けている「あすリートチャンネル」と「高校サッカードットコム」が初めてタッグを組んだ。スタッフが、数ある"激アツプレー″の中から、「テクニック」「連携」「豪快さ」などを加味し、独断と偏見で選ぶ“激アツプレー”BEST10!の企画をあすリートチャンネルで実施中。
この初コラボを記念して、普段あまり見ることのない全国高校サッカー選手権大会のテレビ中継の舞台裏や、実況に挑むアナウンサーの心境などを、数々の試合で実況を担当してきた読売テレビ平松翔馬アナウンサーにインタビューさせて頂いた。
ーーーー読売テレビに入ってからの平松さんの経歴を簡単に教えてもらえますか?
アナウンサーはアナウンススクールなどで研修を受けて入ってくる人が多いんですが、僕は大学まで野球をやっていたのでド素人で入ってきまして、ゼロからのスタートで入社して7年目になります。ずっとスポーツは関わらせていただいているんですが、スポーツ班に入ったのが2年目の途中でした。高校サッカーの実況を始めたのが入社4年目になります。初めて大阪の決勝を喋らせてもらったのが98回大会で興國vs阪南大高で、興國が初めて全国に行った年になります。その後は98回全国大会と、99回大阪の決勝実況をやって、サッカーだとFC大阪(JFL)のホームゲームや大学の総理大臣杯などを担当しています。去年からプロ野球の実況もやっています。
ーー実況をやるにあたって気を付けていることはありますか?
これは読売テレビの伝統なのかもしれないですが、先輩方と中継反省会を定期的にやっていまして、実況を見直しながら先輩方に教えてもらうんですが、そこで言われていたのが「オンタイムで実況しよう」ということでした。シュートを打つ時にシュートを打ったのが誰か、間違えずに言えるようにすることが実況の基本の”き”なので、選手の名前を憶えてボールを持っている選手の名前を言う訓練をひたすらしていました。なので、一番意識している事は名前を言ってあげる事ですね。
ーー大阪大会は高校数も多いので大変ですよね?
大阪は高校数がめちゃくちゃ多いので、他府県のアナウンサーと喋っていても大阪は異質で、ベスト8のどのチームが全国に行ってもおかしくない。だから取材する段階からどこが決勝に来てもいいように準備をするんですが、決勝に上がってくる2チームの特徴がどうやったら一番自分の頭に入って、どうやったら一番上手く伝えられるのかを考えていました。
ーー初めて大阪大会の決勝の実況をされた時は両チームに対してどういう印象がありましたか?
あの年は阪南大高がインターハイに出ていて、全国でも成績を残していました。興國は取材の中でびっくりしたんですが、大会を勝ち抜くことよりも選手の育成を目的にしていて、自分たちのサッカースタイルで勝つ事が必要というチームでした。”実力校の阪南大高”と”選手個々の実力はあるけどトーナメントを勝ち抜く経験はまだまだ浅い興國”という構図だった印象があります。
実況用の資料
ーーあの時はまだ観客が沢山入っていて凄い雰囲気だったと思うんですが、そこはどう感じましたか?
アナウンサーをやっている中で、お客さんの反応は凄くありがたくて、それに合わせるみたいなところがあるんです。あの時の2点目の樺山君(現・山形)のゴールがスーパーゴール過ぎて、CKから足の外側で合わせて逆サイドネットに突き刺さったんですが、僕はそれが一瞬入ったのかどうかわからなくて、会場の雰囲気も一瞬”間”があって、みんな”えっ?なにこれ?”ってなった後に”ワァー”っと盛り上がったんです。それで僕も”あっ!入ったんだ!”と思って「入った――――!」と喋ったんです。あれはお客さんがいて本当に良かったと思いましたね。
今でも恥ずかしいと思っているですが、その翌年の99回大会の準決勝、履正社vs阪南大高はお客さんがいない試合で、途中から出てきたスーパーサブの廣野君のシュートがサイドネットに刺さったんです。それを僕は「決まった――!履正社高校逆転!」と言ったんですけど、廣野君をよく見たら思い切り頭を抱えていて、”ん?”となって「失礼!(外側の)サイドネットです!」っと言って、大恥をかくという経験をしました(笑)。98回大会と99回大会の何が一番違うかって言ったらやっぱり”お客さんがいるかいないか”ですね。やっぱり観ている人にリンクして、観ている人と同じ温度感で喋れるかを意識しているので”お客さん欲しいな”と凄い思いますね。
ーー今年も決勝の実況を担当されるという事ですが、100回大会の記念大会ということで意識する事はありますか?また、3年目という事で経験も増えてきて気持ち的に変わってきたところもありますか?
今言ったように大きな失敗もいっぱいしているので、”こうやったら失敗する”とか”何が大事なのか”っていうことを考えながら3年間やってきて、その経験を踏んできた上で今年一番いい実況が出来たらと思っています。
100回目というのは凄い歴史の重みがあって、受け継がれてきたことを大切にしたいと思っているんですけど、一方で選手にとってはたまたま100回大会なんだと思うんです。なので、あまりそこに捉われすぎず、”目の前で起きている高校生の今のこの瞬間が一番大事”というのを自分の中で持ち続けながら、やっている選手たちが一番輝けるように喋りたいと思っています。そこは相反するところですけど、伝統は伝統で凄いんですけど、戦っている選手はそこを意識して今年サッカーをやってきたかと言えば違うと思うので、両方を伝えられたらと思っています。
全然レベルが違うんですが、自分自身がスポーツをやっていたので、”やっている選手はこう思っている”とかは忘れないようにしていて、誰も失敗しようとして失敗するわけではないので、それをどう救ってあげられるかもスポーツをやってきたアナウンサーだからこそ出来るのかなと思います。この舞台に出ているだけで凄いことで、ここに辿り着くまでにとんでもない努力をしてきて、日常全てをサッカーに捧げてきた選手たちにリスペクトの気持ちを持って伝えていきたいと思います。
僕自身も高校で野球をやってきて、最後の負けた試合の終わり方は今でも夢に出てくるぐらい、ずっと脳裏にこびり付くんですよ。だから高校サッカーをやっている子たちも最後の試合は一生残り続けると思うんですが、それを中継して声もあてるのでより鮮明に残ると思うんです。だからこそより良い思い出になって、宝物になってくれればいいなと思っています。
実況用の資料
ーー98回大会は全国大会も実況されたという事ですが、興國vs昌平は凄く注目のされていたカードでしたよね?
初めて全国大会を実況するのがこんなに凄い試合でいいのかと思いましたね(笑)。抽選会が終わった時から注目されていて、大会屈指の初戦と言われ続けていて、全国のアナウンサーやスタッフが全て同じホテルに泊まっているんですけど、会う人会う人に「凄いカードだね!」と言われました。
興國に同行するんですが、相手校の昌平にも取材に行かせていただいて、藤島先生に色んなことを教えてもらったんですが、聞けば聞くほど両校の考えている事が似ていて、微妙に違うんですがどっちも技術を大切にしていて、”日本のサッカーを強くするために”というところから興國は興國のサッカーを、昌平は昌平のサッカーをやっているので、それをどうやって伝えればいいのかずっと考えていました。どちらも2年生にタレントが多くいて、2年生が10番を背負っていて特徴も似ていて。でもやっぱり3年生が最後という事もあるので、2年生が10番を背負っている意味だったり。そういう事も凄く考えましたね。
試合終了間際に2点ビハインドで興國の3年生が投入された時なんかは感情が溢れすぎてしまって、終わった後に”興國の話をし過ぎちゃったな”と思って。どうしても地元校や3年生に気持ちが寄ってしまうことがあるんですけど、勝った昌平を讃え切ることが出来ず、”興國が負けてしまう”っていう方になってしまって、観ている人の邪魔になってしまったんじゃないかと。どんな実況をすれば観ている人が一番違和感なく、高校サッカーを楽しめるのかっていうのは永遠のテーマで課題だと思うんですが、それを凄く感じた試合でした。
ーーーー大阪大会の決勝が初の生放送ということですが、スタジアムに行きたくても行けない方もいると思うので、生放送でテレビ中継するっていうことにより重みがありますね?
やっぱり高校サッカーを好きな方はいっぱいいると思うんですが、今回は大阪大会決勝を初めて生放送で出来るという事で、近畿2府4県のエリア外の方も観れる環境なので、現場の熱をテレビで観ている方にも届けられればと思っています。やっぱりスポーツは生放送の方が”どうなるんだろう”っていうドキドキ感をもって観れると思うので、環境を作っていただけた方に感謝して、その中でも大事な実況をやらせてもらえるので、”平松に任せて良かった”と思ってもらえるような中継に出来たらと思っています。
(文・写真=会田健司)
全国高校サッカー選手権大阪大会“激アツプレー”BEST10!