その兄弟アベックゴールをアシストしたのが須藤だ。相手に厳しくマークされたが、終盤に左サイドへポジションを移すと、鋭いドリブルでゴールへの道を切り開いた。同点ゴールが決まった直後、須藤は歓喜の輪を作るチームメイトではなく、メンバー外となった仲間たちが見守るバックスタンドへ向かい、ピッチに顔をうずめて涙を流していた。「もちろん諦めていなかったけれど、心のどこかで『負けたら俺らの選手権、終わりだ』というのがあった」とその心境を思い起こしている。

 周囲からは優勝候補と期待されるが「予選と全国では緊張感が違う。特に初戦はそう。1失点目の西村も、いつも通りなら(相手のFKを)弾き返せていたけれどイレギュラーしてしまった。この経験を2回戦で爆発できるよう生かしていきたい。選手権が厳しい舞台なのはみんなわかったはず。自分たちはまだまだできる。みんなでしっかり話して、2回戦へ向かいたいです」と前を見据えた。

 高川学園は手中に収めかけていた勝利を、最後の最後で逃してしまった。前後半で見せた守備や、素早い攻守の切り替えは十分に通用していただけに、悔しい結果だ。江本孝監督は「2-0でいくという予想はできていなかった。選手が我々の予想を上回る戦いを見せてくれた。それは本当に素晴らしかった」と選手を称賛し、その上で「ただ、ラスト5分は少し弱気なところが見えてしまった。例えば1失点目は、前にボールを送り込まないといけないところをバックパスで戻してしまった」と話した。主将のMF新山大地(3年)も「相手をリスペクトしすぎないこと。監督も「相手は同じ高校生だ」と言っていた。いい守備から入る自分たちのサッカーはできていました。カギを握るセットプレーやショートカウンターからも点が入った」と振り返っている。

 優勝候補を崖っぷちまで追い込んだ末の初戦敗退。「(コロナ禍の)この状況でも何ができるのかを問いかけてきた」(江本監督)、「最後の守り方は課題として残った。結果を残せなかったのはすごく悔しい。ただ、日々の練習から我慢強さを身に着けてきたし、それをこの舞台で少しは表現できたと思います」(新山)と胸を張って大会から去る。

(文=雨堤俊祐)

▽第99回全国高校サッカー選手権
第99回全国高校サッカー選手権