しかしこの日、松山北が見せる勝利への執念は凄まじいものがあった。後半32分、MF福田が蹴った右CKをニアサイドから中央に送り、さらに途中出場のMF友近 圭貴(2年)が胸で落とした先にいたのは豊富な運動量と声でチームをけん引していたFW串部。「脚がつっていたので、このCKが終わったら交代を進言するつもりだった」彼の乾坤一擲右脚ジャンピングボレーは、強烈な弾道でゴールネットを揺らし2対1と勝ち越し。
直後の後半25分、松山工もFW石井の右サイド突破から大木が自らのヒールシュートのこぼれ球を再び押し込んで同点に追い付いたが、10分ハーフの延長戦に入っても松山工はゴール前に迫っても常に松山北の気迫に阻まれる状況となった。
そして延長前半アディショナルタイム。今度は松山北が松山工DFラインの裏を突く。はーフェーラインから相手の激しいプレッシャーを受けながらMF友近が出した左足ロングパスに左サイドから反応したのは串部と共に「みんなを引っ張る思いでやってきた」3年生MF稲井。全ての想いを込めた右足シュートがネットを揺らした瞬間、松山北ベンチとスタンドは、この試合一番の歓声に包まれた。
さらに松山北は延長後半5分、前がかりになった松山工の焦りを突いたFW三宅がクリア処理のミスを拾って左足シュートを決めて4対2。純白のユニフォームは半年前、同じニンジニアスタジアムで流した悔し涙を喜びの涙に変え、2年ぶり5度目の選手権出場を決めた。
2年前は矢板中央(栃木)に前半2点を先制しながら悔しい逆転負け。その場面をベンチ入りメンバーとして見つめていた稲井は「あの時、悔しい思いをした時から選手権に戻りたいと思っていた。選手権では愛媛県の代表として戦いたい」と改めて全国での意気込みを述べる。
その原動力はこの日、ライバルに引き出された「闘うことの尊さ」。松山北は選手権の大舞台でも足下を見つめ「できること」を懸命に80分間を戦い抜く
(文・写真 寺下友徳)