「終わってほしくなかった」国立決勝戦。そして今のユースサッカー年代へ
ーー――選手権は決勝戦もそうですが、準決勝の前橋商(群馬)戦も開始2分で服部 浩紀選手(元:横浜フリューゲルスなど・現:ルーヴェン高崎FC代表)に直接FKを決められてからの逆転勝ちでした。逆転につなげるメンタリティの秘訣はあったんですか?
実は当時、僕らが一番選手権出場校の中で強いと感じていたのは桐蔭学園(神奈川)でした。桐蔭学園とは練習試合で対戦したこともなかったし、自分たちと同じようなスタイルのサッカーでかつ、個々の平均的な質は自分たちよりも高いと思っていた。「準決勝はシビアなゲームになるな」と思って会場を後にしたんです。
ところが、準々決勝で前橋商が桐蔭学園に勝ってくれた。「これはいける」です。だから、先制されても慌てなかったし、リ・スタートでは2年生の實好(礼忠・京都サンガ監督)と同級生の岡原(正佳)がいるので、無理にクロスを上げずにCKを採る戦術で実際にセットプレーで得点できた。このように毎試合ごとに自分たちの強みと相手の弱さはよく研究していましたし、自分たちでよくそんな話もできていました。
決勝戦も1年生の上野 良治(元横浜マリノス・日本代表)に僕が股抜きされて(笑)先制はされましたが、自分たちもチャンスは作れていましたしハーフタイムでも石橋先生から「落ち着いてやりな」と言われて「そうだな」と思ったことを覚えています。
そこから後半早々にアウトサイドパス3本で逆転(西田の2ゴール)して、あとは粛々と40分ハーフのゲームを進めていく中で、最後に思ったのは「終わってほしくないなあ」……。
ーー「終わってほしくない」ですか……。
追い付かれる怖さより、「これで高校サッカーが終わってしまう」寂しさの方が先に立ったんです。目標にしていた国立競技場でプレーしている自分を客観的に見ているもう1人の自分がいましたね。「勝ち切りたい」じゃなく「終わってほしくない」です。 だから、映像に残っているかどうかは解りませんが、自分は終盤に主審に向かって時計を指すしぐさをしているんです。でもそれは「あと何分で試合が終わるか」ではなく「あと何分、この時間があるの?」で。岡原とかとも試合中「このまま終わらない方がいいよね。おもろいやん。お前も空中戦がんばってやってるし」とかいう話もしていたんです。 自分もひざの内側じん帯を痛めていた中、準決勝からは「情けないからテーピングを取る」という決断を下すなど、「負けたくはない」「優勝する」という意思はあったけど、「優勝したい」という欲はなかった。それが最後、そんな心境に達したんだと思います。