ーー優勝した後の心境はどうでしたか。

 嬉しいというよりも「これで高校サッカーが終わったな。やりきったな」でした。だから写真を見ても僕らは泣いていないんですよね。

 はじめて優勝して泣いたのは、南宇和に帰り、優勝祝賀パレードをして、学校に戻ってベンチに入れなかった3年生たち、本当にチームを支えてくれた彼らの偉大さを思い出した時でした。不思議なもので、スポーツってレギュラーだけでなくBチームを含めたチームが一体になっていないと勝てないんですよ。連覇が難しい理由もそこなんでしょうね。

ーーでは最後に、そんな経験を踏まえて今のユース年代サッカーへ、大西さんが伝えたいこととは?

 当時の自分たちは、セルジオ越後さんもよく来て教えて頂いた小学生の時かから、サッカーの楽しさや自分たちで考えることの大切さを学ぶ環境に恵まれていました。とはいえ、30年前の栄光を継承していくことは難しい。地域が変わったのではなく、南宇和高校サッカー部を見る目が変わったんだと思います。地域に根差してコツコツとすることの難しさは今の時代では難しいことも理解しています。

 その半面、営業職をして、サッカーの指導もしている今の自分になぞらえると、どのようにして目標を成し遂げるためにチームで動くか。目標達成のために何が必要か。準備を進めるか。俗世間で言う「PDCFサイクル」(構想・実行・評価・分析)をどう回して結果を出すかを考える上で、自分の南宇和におけるサッカー経験は間違いなくプラスに働いています。さらにこのサイクルを回していくと「仲間」ができるんですよね。

 ですので今のユース年代サッカー選手たちは、この新型コロナウイルスに対する状況下でも、自分たちで考えて失敗して、学んでいってほしい。1つのトレーニングメニューに対してもゲームのどの局面にあてはまるかを考えるようすれば、もっと考え方の幅が広がっていく。「スタートから集中していく」といった日々の先には、僕が南宇和で経験した「未来」や「仲間」が生まれることを覚えてほしいですね。

 逆に大人たちは選手たちに自分で考えるベースとなるべきものを教え、チャレンジする環境を与え、チャレンジに対して責任を取れる、謝罪できるような人間にならないといけないし、時代に対して対応できるようにしないといけない。3対3のメニューにしてもそれがミドルゾーンなのか、ゴール前なのかですべきことが変わる。前日に答えを導き出すヒントを与えてあげると、もっと選手たちは考えるようになる。

 今でも僕は森保 一さん(日本代表監督)や高木 琢也さん(大宮アルディージャ監督)といった方々とも連絡を取っていたりしますけど、完全なる正解がない中で、みんなで正解を求め合ってことが大事。その先に信頼関係が生まれる。そう思います。

 でも僕だって失敗しているんですよ。Jリーグではサンフレッチェ広島で風間 八宏さん(元名古屋グランパス監督)に「考えろ!」と言われて、考えた上で努力ことができない残念な選手だったことが、今の自分につながっているわけです。

 昨年もそう。天皇杯愛媛大会決勝戦でFC今治に勝つために、自分のスタイルでないショートカウンターのサッカーを採り入れて勝ったら、その後に「前から行くぞ!」となっても選手たちは「やりません」となって。四国大学リーグを制することができなかった。自分もまだまだ勉強です。

ーー今回は貴重なお話。本当にありがとうございました!

(取材=寺下友徳)