ーー確かに。ただそれでも「戦術的に伸び代がない」とか「ボールを保持して勝て」などという意見も聞きますよね?

 そうですね。確かにその点では物足りなく感じている人たちの気持ちは理解できますよね。組織論の観点で言うと、チームワークにも色々な種類があります。サッカーに求められるチームワークというのは、「一人ひとりが異なる特徴を持ち寄り、それぞれの役割を果たしながら、相乗効果で目標を達成する」というのが理想だと考えているんですけど、森保ジャパンの場合はある種の「集団行動」のように映りました。「全員で守るんだ、みんなで同じことをやるんだ」と。みんなで同じことをやるのは、日本人は得意なんで。強みを生かしたと解釈することもできます。

 同じことをやると言うことは、個々の顔が見えにくいサッカーって言うことなんですよね。これが「状況に応じてやることを変えなさい」となると、個人で判断する要素が増えることになる。そういうチームワークというのは、まだ日本は苦手なのかもしれないですね。けれども、今大会の戦いは「みんなで我慢強く守備をする。チャンスが来たら逃さない」と言うシンプルでやることが決まっている、「集団行動的なチームワーク」だったので、日本にはハマったのかなと思うんですよね。

 だから、ドイツやスペインより、ややボールを持たせてもらえたコスタリカやクロアチアには苦戦してしまったんじゃないかなと。

ーー少しボールを保持できたことで、逆に「判断要素」が増えてしまい迷ってしまったということでしょうか?

 おそらくそうなのかなと。「あれ、何をしたらいいんだろう?」と。攻めたり守ったり、「持とうと思ったら持てるな。あれ、どうしよう?どうしよう?」という感じで。

 それは岡田ジャパンの時も一緒で、守備の時間は長くなるけど、阿部勇樹選手をアンカーに置いて、チャンスが来たら鋭いカウンターからゴールを狙うという。ああいう戦い方ができるんだということが12年前にも示されていたんですね。森保ジャパンに批判的な人は、そういう戦い方に「またそれやってんのか」とか「進化がないじゃん」と感じているのです。

福富氏は「同じグループに、欧州も南米もアフリカもいたら、メンバー選考がバラついてしまった可能性も」と推測

ーー相手が南米とかだったらまた違った戦い方になっていたんでしょうか?

 これは僕の勝手な推察なんですけれども、グループEでドイツとスペインと同居できたことは、解釈によってはラッキーだったと捉えることもできるのかもと。なぜなら、格上と目されるドイツもスペインには押し込まれることは想定できる。もしも、同じグループに、欧州もいるし南米もいるしアフリカもいるとなっていたら。もしも、圧倒的な格上ではなく互角に戦える国が複数同居したら。いろいろな状況に適応するため、メンバー選考ももっとバラついてしまった可能性も考えられます。

 でもドイツとスペインが同居した時点で、ある程度押し込まれることも想定した準備となるわけですよね。今回は相馬選手、伊藤選手、前田選手、浅野選手など、スピードが武器の選手が前線に揃っていました。異なるシチュエーションだったらどんなメンバー選考になったのか、監督に聞いてみたいですね。

 あとはルール変更。交代枠が3人から5人に変更されたのも大きかったでしょう。交代枠って主に、「質と強度をどう維持するか」もしくは「どう変化をつけるか」という選択だと思うんです。今回は5人交代できるので、フィールドプレーヤーは半数が交代できる。前半とはガラッと違う別のチームを用意することもできた。控えメンバーも豪華で、個の力が突出した国は交代枠3人でも良かったかもしれませんが、日本にとっては交代枠5人への変更は有利に働いた可能性がありますね。

 次回#4では森保ジャパンのベテランと若手の融合、チームの完成度などについての話を紹介する。

協力=BRIGHTON CAFE

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