東京電機大学理工学部サッカー部監督・ヒューマナジー代表 福富信也氏

 東京電機大学理工学部サッカー部監督の福富信也氏。福富氏は、チームワーク強化、いわゆる「チームビルディング」をサポートする株式会社ヒューマナジーの代表でもある。

 福富氏が携わったチームは令和3年度全国高校サッカーインターハイ(総体)準優勝の米子北(鳥取)や、第96回全国高校サッカー選手権で長野県勢初の4強進出を果たした上田西、2016シーズンJ2優勝・J1昇格の北海道コンサドーレ札幌、第99回天皇杯優勝を果たしたヴィッセル神戸、2022シーズンにクラブ史上初のJ2昇格を果たした藤枝MYFCなどさまざま。

 そんな福富氏にチームビルディングの観点から先のW杯で決勝トーナメントに進出した日本代表チームの特徴などについて話をうかがった。

ーー「実力がある」というと語弊があるかもしれませんが、上手い選手ばかり集めてしまうと選手間などで衝突してしまう可能性があったりするんでしょうか?

 衝突もあるかもしれないんですけれども、むしろ衝突が少なくなってそれがチームを停滞させることもありますね。たくさんのクラブを見てきた僕の経験則から言うと、上手い選手が集まると「あいつは過去にビッグクラブでプレーしていたから」とか「あいつには立派な経歴があるし」など、お互いに過度なリスペクトをしてしまう部分があるんです。そうなると、表面的には大きな問題は見当たらないですが、「こんなことを指摘したら失礼かな」「こんなこと、いちいち言わなくてもわかっているかな」「言われたら気分を害するだろうか」などとプライドに配慮し過ぎてしまい、言うべきことを言わなくなってしまう。

 「もっとこうしようぜ」と言わなければいけないのに、それが言えないことによってチームの基準が下がってしまい、「選手の経歴はすごいのに意外と勝てない」というチームって結構あるんです。日本人特有の気質だと思います。日本代表ではなく、あくまでクラブでの話ですが。

 だから、凄く真面目なリーダータイプもいれば、底抜けに明るいムードメーカーがいたりと、性格的なバランスがかなり重要だと思っているんです。たとえば、真面目な選手ばかりだと、1-0でリードを許した試合のハーフタイム、ロッカールームではみんなが真剣に考えこみ「深刻な雰囲気」になってしまうわけですが、気軽に発言できるタイプ、ムードメーカーなどがいれば深刻にはならないですよね。森保監督はそういうところまで考えていたかもしれないですよね。

 柴崎(岳)選手や南野(拓実)選手などはほとんど試合に出ていませんでしたが、それでも不満分子になることなく、チームのためにやるべきことをやっていた。それは、チームとしての「在り方」が浸透していたことがうかがえますね。

 先日テレビに出演されていた森保監督が「控えメンバーという考え方はしていない。選んだメンバーは全員大事にしているし、全員を尊重している」と発言していましたね。「野球で言えば先発ピッチャーもいるけど、中継ぎも必要だし、抑えも重要。全員が大事な役割を担っている」と説明していました。そういう意味でも、全員に存在意義を理解してもらえるよう、しっかりと個別に対話を重ねていたはずです。

ーーなるほど。そういう対応をしていたからこそ「堅守速攻」的な戦術でもチームの規律を守ってしっかり戦えたということなんでしょうかね?

 森保監督の中では、ある程度押し込まれる時間は長くなるだろうという想定はあったでしょう。ボール保持率で言うと、ドイツ戦もスペイン戦も20%前後でしたよね。それなのに、集中を切らすことなく愚直にやり続けられるっていうのは日本人の強みだと思うんですよ。

 森保監督はよく「粘り強く」とか「我慢強く」という言葉をよく使いますが、それを実際に体現できるというのは大きな強みなんじゃないのかなと。それは「圧倒的にフィジカルが強い」とか「テクニックが秀でている」ということと同じくらいの強みだと思うんです。

 本当に、ボール保持率が20%前後であるにもかかわらず、これだけ統率が取れてやり続けられるということは、僕自身は凄いことだと思っていますね。

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