試合後、梶村監督は目頭を熱くさせながら、選手たちに労いの言葉を送った。森嶋の死後、攻撃陣の柱として、チームを引っ張り続けたエースストライカーの堀は、「いなくなってから、自分がどれだけ大琥に頼りきりだったのかを思い知った。それからは大琥の分まで、自分が中心になってやるんだという気持ちになった」と、心境の変化を口にする。その言葉通り攻守に奮闘し続けた堀は、大黒柱の重責を見事にはねのける素晴らしい活躍で、大会MVPに輝いた。

 今大会中、ベンチには2人のユニホームが掲げられ、共に戦ってきた。森嶋と共に、下級生からメンバー入りし、切磋琢磨してきた西村も「最初は前向きになることができなかったけど、やっぱり2人自身のことを考えたらここで立ち止まる訳にはいかないと思って。みんなで声をかけあって、やってきた」と、苦しかった夏からの歩みを振り返る。

 ここまで10番不在のまま奈良予選を勝ち抜いた奈良育英。森嶋にとって、集大成となるはずだった選手権本大会でも背番号「10」の代役は立てず、規約等に問題がなければ、森嶋を登録したまま、共に戦うことを検討しているという。新たな黄金期を迎え、5連覇を成し遂げたチームだが、そこに慢心も気負いもない。「大琥と愛流のためにも、全国でも点を取って、チームを勝たせたいです」と堀。今度は、2021年以来となる全国舞台での勝利を、亡き友に捧げるつもりだ。

(文・写真=梅本タツヤ)

     

▽第104回全国高校サッカー選手権奈良予選
第104回全国高校サッカー選手権奈良予選