逆境を〝チャレンジ〟で跳ね返す〝伊藤壇イズム〟がチームに浸透!初出場クラーク国際が、逆転で初戦を突破!

前半34分、MF髙道は鮮やかなジャンピングパスで、FW古川のゴールをアシスト

 試合開始早々の前半2分に1点を失い、『早く追いつきたい』焦りと、初出場の緊張感があいまって、パスの精度が微妙に乱れる。1年生が入学し、チームができたばかりだった春先ならずるずる行きそうな流れを一変させたのは、 MF山口啓太主将(3年)の気の利いたプレーだった。

 8月28 日、全国高校サッカー選手権札幌地区予選1回戦が、札幌・北星学園大学付属高校グラウンドほかで行われ、昨年 6 月に3人で創部したクラーク国際が4-1で北海学園札幌を下し、初出場で初勝利を手にした。

 前半28分、ペナルティエリア手前でしつこくボールを持って北海学園札幌のファウルを誘うと、すぐに立ち上がってリスタート。左を駆け上がった MF髙道勇壮(2年)は山口のパスを受けると、意表をつかれて一瞬足の止まった相手ディフェンスラインを突破し、ゴールライン付近から右に速いクロスを蹴り込む。走り込んだ MF中村修斗(2年)がダイレクトで左足を合わせ、試合を振り出しに戻した。

 その6分後は、 MF中村とDF多賀士恩(1年)によるスローインでのトリックプレーを起点に相手ゴール前に侵入。 MF髙道がギリギリまでGKを引き付け、最後はジャンピングパスで中央に送ったボールに、 FW古川暖(1年)が右足をミートさせて勝ち越した。後半にも2点を加えたクラーク国際が4-1で北海学園札幌を下し、初戦を突破した。

戦況を見つめる伊藤壇監督

 クイックリスタートも、スローイン時のトリックも、 22の国と地域のクラブでプロサッカー選手としてプレーしてきた伊藤壇監督(45)が、この夏のトレーニングで練習させたもの。現役時代に約30人の監督の下で戦い、ブータンでは自らプレイングマネージャーとして試合をコントロールした。熱帯地域、そして凍えるようなヒマラヤ山脈の麓で戦いながらつかんだ〝点の取れるチャレンジ〟の引き出しは多い。「今日の4得点は、すべて練習で試してきた形。開始2分で失点し、嫌なムードで始まったが、トレーニングで繰り返したことを大事な試合で出して勝てたことは、選手にとっても自信になったはず。今後も、どんどんゴールできる形を教えていきたい」と、指揮官は自信を深めた様子だった。

 MF山口は昨年6月、「伊藤壇監督の指導を受けてうまくなりたい」と、新潟のサッカー名門校から転校した。当時は山口を含め部員は3人。練習で豪快にシュートを外せば、隣のグラウンドまで自分で取りに行った。部員が100人を越える前籍校では、考えられない環境。それでも「やめようとは1度も思わなかった」という。同点弾の MF 中村、この日3アシストの MF髙道は、昨年11月にチームに加わった。すぐに雪が降り、雪山登りやクロカン、格闘技など、伊藤監督の繰り出す一見サッカーとは関係なさそうなメニューもこなし、一冬を越えた。スローインのトリックに加わった MF 中村は「びっくりするぐらい練習どおりに相手DFの裏に抜け出せた」と、うれしそうにプレーを振り返った。約10ヶ月間のトレーニングのすべてが、この日の結果に凝縮されていた。

 苦しい時こそ威力を発揮する〝壇イズム〟を部員が少しずつ継承、まずは初出場の選手権で初勝利をつかんだ。「明日の札幌山の手は、手強い。たった一つのミスが、即負けにつながる。ただ、チャンスは必ずある。その少ないチャンスを確実に点に結びつけて、次のステップに進みたい」と伊藤監督。北海道大会常連の札幌山の手との一戦も、逆境でこそ真価を発揮できるチャレンジで、勝機を見出す。