武南の誇る超攻撃的SB安野天士は後半16分、矢地の落としに後ろから走り込むと鋭く左足を一閃。力強いシュートでネットを揺らし、波に乗り切れないチームに追加点をもたらした。
「サイドバックなんですけど、常にゴールを狙っているつもり。なかなか試合で点を取ることはできないんですけど、今日はこういった形で取れて良かったかなと思います」。その言葉にたがわずチーム最多タイの4本のシュート。またこの日は得点には結びつかなかったものの、正確なキックも武器で、ゴールに、アシストに、セットプレーは大きな得点源となっている。
そんな安野だが、昔からいまのスタイルだったわけではない。柏レイソルJrユースに所属していた中学校年代はどちらかといえば守備型の選手。「サイドから上がるっていうのは中学の時はあまりしていなくて、どちらかというと守備型で、相手の戦術に合わせて守備を固めたい時とかに出るっていうことが多かったです」。当時からキックには自信はあったというが、チームには今季ユースから昇格を決めたFW鵜木郁哉がおり、それを披露する機会はなかった。
「変化」が始まったのは武南に入学してから。県内でも攻撃的なサッカーを志向する武南でまず意識の変化が起こる。「守備はもちろん点を取られないっていうことが大事なんですけど、それ以上に点を取らなきゃサッカーは勝てない。FWをサポートしたり、攻撃の厚みをかけるとなった時に、中盤も大事なんですけど、サイドからの上がりもないとサイドハーフも孤立してしまうので、縦の運動量は増やすべきだなと思って、そういう考えになってからはいまの攻撃的な形になりました」。さらにフリーキックにも磨きをかけ、武器となるように鍛え上げた。
プレーの変化は精神の成長にも繋がり、今季は副キャプテン、金子の不在時にはゲームキャプテンを務める。内野監督も「まだまだですけどね」としながらも「いまの姿を見ると、前のレイソルの人たちはみんな「えっ!」みたいな感じになりますよね。あいつはうちに来てくれて本当に良かったなと思うし、本当に育ってくれた選手のひとりだと思います」と目を細める。
そしてそれ以上に本人が武南での3年間で変わったと感じていること―。
「技術的な部分も変わったんですけど、『誰かのために戦う』っていうところを持つようになったのが一番大きく変わったことかなと思います。高校生になっていろいろと学んで、いろいろな人の話を聞いて、もちろん自分が試合に出て活躍するのが一番ですけど、それ以上にベンチで応援してくれている人とか、監督、やっぱり一番は両親のためにも、そういった支えてもらっている人たちのために戦えるっていうのがやっぱり一番成長したところかなと思います」。
ゴール裏にはメンバーが考えたというそれぞれのキャッチフレーズが書かれたボードが飾られるが、安野のところに記された文字は「破天荒」。普段の姿からは想像しにくい言葉だが、仲間たちはもしかしたら安野の変化を恐れない姿勢に「破天荒さ」を感じたのかもしれない。
高校3年間で心技体とも大きく成長した名門の超攻撃的SBが復活を期すチームを引っ張る。
記事提供:埼玉サッカー通信・石黒登