四中工にとっては、2点のビハインドをひっくり返すのは容易ではない。ハーフタイムに、伊室陽介監督から「これぞ高校選手権というサッカーをしよう。次の1点を取れば、観客もお前たちに風を吹かせてくれる」と背中を押されたチームは、後半開始と共に俊足のFW7浅野 快斗(3年)を投入。「2-0になったら相手が引くのは分かっていた。前に出てこないので、ワンタッチのコンビネーションを増やし、推進力を上げていこうと伝えた」(伊室)と攻勢を強めた。

 だが、矢板中央は前半から守備戦術を変え、四中工がボールを持ったら、フィールドの全員が自陣でブロックを敷くことで、攻め込む隙を与えない。攻撃のキーマンであるMF10森 夢真(3年)に対しても2人、3人と囲い込んで対処。36分にはカウンターから柿崎がゴール前を抜け出し、シュートを放つなど試合巧者ぶりを発揮した矢板中央が2-0で勝利した。強固な守備を崩せなかった伊室監督が「私が監督でも彼を潰しに行く。ただ、森に相手がついたことで生まれるスペースを使えなかったり、森が見方を使いながら推進力を上げたり、工夫ができなかった」と肩を落としたのに対し、MF6靍見 拳志郎(3年)は「今年の代の課題だったゴールを守ることを克服できたゲームだった。全員で守るという気持ちが一つになった結果の無失点だと思う」と胸を張った。

悔いが残る敗戦となった四中工だったが、夏以降に掲げたベスト8という目標は達成した。伊室監督は「彼らはよく頑張ってくれたと思う」と称えつつ、「チームが空中分解しそうな時期もあったし、(主将の)森自身も物凄く悩んだ時期があった。私自身も悩んだ時期もありましたが、最後は一つにまとまった。四中工のあるべき姿まではまだ到達できなかったのですが、彼らが今後に繋がるきっかけを与えてくれたと思います。この経験を来年以降にしっかり繋げて、上の壁を乗り越えたい」と前を向き、大会を去った。

(文・写真=森田将義)

▽第98回全国高校サッカー選手権大会
第98回全国高校サッカー選手権大会