2016年4月に武蔵の教員となり、その後サッカー部の監督に(写真=多田哲平)

――大西先生が築き上げてきたものに岩永先生がプラスしているものはなんでしょうか。

 ひとつ、勝負にこだわるところは大事にしている部分ではあります。もちろん大西先生が勝負にこだわっていなかったわけではありませんが、より表面化するというか、もっと結果を追求していくことを口にしていきたい。それこそ、もともとプレーヤーで、負けず嫌いな自分のパーソナリティを出せる場所かなと。前面に押し出しすぎてもいけないですが、方向性として、そこは強調していますね。

――育成年代においては、結果を取るか成長を取るかは難しいところですよね。

 結果と育成のバランスは学生スポーツの永遠のテーマですが、私は両獲りしたいんです。勝つことで得られるものは多いですし、自信をつけることで選手は変わる。だから勝たなくてもいいということは絶対にないと思っています。ただ、そうは言っても、勝敗にこだわりすぎて、一時しのぎのサッカーはしたくない。そのバランスだけは見失わないように心掛けています。

――他に指導者として意識していることはありますか?

 あとは生徒には長くサッカーを続けてほしいです。高校サッカー部での活動を終えた時に「やっぱりサッカーって楽しいな」「もっと上手くなりたいな」という想いを生徒には持っていてほしいなと。

 武蔵からプロになる選手はほとんどいませんけど、サッカーが好きでここまでやってきているわけだから、高校で辞めてしまうのはもったいない。だからこそ技術を磨くこと、自分の頭で考えること、相手との駆け引きなどそういうサッカーの楽しさが伝えられる指導者になりたいなと。最近は東大などの大学に行ってもサッカー部に入って続けている生徒が多いので、それは嬉しいですね。

――「楽しい」「上手くなりたい」など、選手のモチベーションを維持させるために取り組んでいることはありますか?

 難しいのは、意欲的な生徒とそうではない生徒がいるので、同じアプローチはできないことです。武蔵で指導をする上ではどちらかと言うと私は、意欲的でない生徒のやる気をどれだけ引き出せるかが重要だと思っています。

 特に中学校・高校の部活動って選手のレベルの差が大きいですし、武蔵では部員数やスタッフの人数などの面から2チームに分けるのも難しい。上手い生徒は同じレベルの生徒同士でやったほうが伸びるのかもしれないですけど、完全にそれをしてしまうと、下の生徒たちのモチベーションが下がってしまうんです。前任の大西先生も、そういった生徒たちを上手く一緒にトレーニングさせていました。私も下の生徒たちのモチベーションを落とさないように、あまりレベルによって分けすぎないことは意識していますね。

 ただ上手い生徒は平気で言ってくるんですよ、「分けたほうがよくないですか」って。確かに上手い生徒にとっては少しストレスになるかもしれないですが、「じゃあ、下の生徒たちをカバーできるくらいに、もっと上手くなろうよ」とか「もっと要求して、教えてあげようよ」と言って、上の生徒のレベルアップにもつながるようにする。そうやってチームの底上げを図っていますね。

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