東京電機大学理工学部サッカー部・福富信也監督

 令和3年度全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会。俗にいう「インターハイ」だ。福井県で行われたインターハイ決勝は青森山田と米子北の顔合わせ。冬の選手権大会で3年連続決勝進出の青森山田は、準決勝までの5試合で28点を奪い、圧倒的な力で決勝まで勝ち進んできた。一方の米子北も強豪校のひとつではあるものの、苦しい戦いの連続で、決勝も下馬評は青森山田の圧倒的有利。しかし結果は試合終盤まで米子北がリードする展開。最後の最後に点を奪われ惜しくも米子北は準優勝に終わったが、“絶対王者”を相手に見事な戦いぶりを見せた。じつはそんなチームを支えたのが、「チームビルディング」を指導し、強化に携わった東京電機大学理工学部サッカー部監督(株式会社ヒューマナジー代表)の福富信也氏。苦戦しながらもトーナメントを勝ち抜き、決勝でも死闘を繰り広げた米子北とのかかわりなどについて、福富氏に話をうかがった。

ーーチームビルディングについていくつか記事を拝見しましたが「背後のチーム」の価値や重要性を説いていらっしゃいました。簡単に言うとどういうことでしょうか?

 チーム全体を考えると、試合に出るレギュラーだけでなく、試合に出場できない選手たちも多くいます。試合に出場できない選手たちもチームの一員です。監督やコーチなど指導者がレギュラーの選手たちだけを優遇してしまうと、試合に出場できない選手が不満を持ってしまったり、熱量が下がってしまったり、チーム全体のバランスが悪くなってしまいます。強いチームを作るためにはそうした“背後のチーム”の選手たちをしっかりとケアしなければいけないんです。

 ただ、“背後のチーム”の重要性を訴求するときに注意しなければいけないのは「試合には出られないお前らがレギュラーをしっかり支えないといけないんだぞ!」というように、控え選手たちに厳しい矛先を向ける指導者がいることです。そうではなく、しっかりやるべきなのは試合に出ている主力組や指導者側なんです。

 彼らが控えの選手の思いを汲んでしっかりとやらなければいけない。そこを間違って解釈してしまう指導者が多いんです。控えの選手たちに感謝の思いや謙虚さを持って接することが必要で、主力側が控えの選手をどう巻き込めるかが重要なのに、「主力選手が力を発揮するためには控えのお前たちが盛り上げないとダメなんだよ」と勘違いしてしまう指導者がいる。チームの一体感を高めるためには、控えの選手たちの熱量が上がってこないといけないんです。

 例えば紅白戦でAチームとBチームが戦ったとします。その時にAチームの選手がBチームの選手に「守備が緩いからもっと中央を締めたほうがいいぞ。そうなると俺たちはもっと苦戦するから」などとアドバイスをする。そういうアドバイスをくれるAチームの選手にBチームの選手も感謝する。アドバイスを実践してBチームのスキルが上がることで、Aチームのレベルアップにもつながる。

 逆にBチームの選手がAチームの選手に「こんな単調な攻撃していても俺たちは崩されないから、もっとオフザボールの選手たちが動かないとダメだよ」などとアドバイスすることによってAチームが伸びる。AチームBチームがお互いを気に掛けることによって、段々とBチームの選手も本気になり熱量が上がっていって、一体感が作られていくんです。

ーー米子北を指導することになったきっかけはどういったことからなのでしょうか?

 今年の春、日本高校選抜がゼロックススーパーカップの前座試合「NEXT GENERATION MATCH2021」に出場する時、埼玉スタジアムなどを活動拠点にしていたんです。で、以前から親交のあった佐賀東の蒲原監督が、日本高校選抜の監督をされていて、「福富さん、10分でも20分でも選手たちに話をしてもらえませんか?」と言われたので、選手たちを集めて30分くらい話をしたんですね。じつはその時に日本高校選抜のコーチをしていた米子北の中村真吾監督が「すごくいい話をありがとうございます。ぜひウチの選手たちにも話をしてやってもらえませんか」ということになって。それがきっかけで米子北のチームビルディングを指導することになったんです。

ーー佐賀東の蒲原監督と親交があったとおっしゃいましたが、どういうつながりがあったのでしょうか?

 じつはウチの会社のスタッフで佐賀東OBの前山幹が、蒲原監督を紹介してくれて。僕も佐賀東高校の選手たちに講演をしたことがありましたし、前山が母校の佐賀東でチームビルディングの指導をやってくれています。だから蒲原監督から「いろいろとやってくれてチームが良くなりました。とても助かっています」ってすごく感謝されていたんですよね。

ーー蒲原監督とはどういう方ですか?

 米子北の中村監督とはまたタイプの違う方で。穏やかで教育的な視点を持たれていいる方ですね。

 次回は「チームビルディング」についての話を紹介する。

協力=BRIGHTON CAFE

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