東京電機大学理工学部サッカー部・福富信也監督

 福井県で行われたインターハイ。決勝は青森山田米子北の顔合わせだった。青森山田は、準決勝までの5試合で28点を奪い、圧倒的な力で決勝進出、一方の米子北は苦しい戦いの連続。決勝も下馬評は青森山田の圧倒的有利だったが結果は試合終盤まで米子北がリードする展開。最後の最後に失点し、惜しくも米子北は準優勝に終わったが、“絶対王者”を相手に見事な戦いぶりを見せた。じつはそんなチームを支えたのが、「チームビルディング」を指導し、強化に携わった東京電機大学理工学部サッカー部監督(株式会社ヒューマナジー代表)の福富信也氏。決勝進出を果たした米子北のチーム力を底上げした「チームビルディング」について、福富氏に話をうかがった。

ーー福富さんの「チームビルディング」は基本的にどれくらいの期間で指導されるのでしょうか?

 よくあるパターンが、「ヤバい、今連敗中なんだよ、助けてよ」などとチームが厳しい状況になったときに、スポット的に声がかかるケースです。もちろん、それを立て直すことも私の仕事なのですが、そうではなくて、やはりシーズンを通してかかわらせてもらいたいなというのが正直な気持ちですね。その方が選手にとっても良いと思いますし、自分自身でも計画的にいろいろなことをやれるし、積み上げていけるので、ある程度の期間任せてもらえることがベストだと思っています。

 僕の仕事は人間の病気に似ているところがあって。これは弊社ホームページにも掲載してありますが、人って体調を崩すと病院に行きますよね? それと同じように「連敗を抜け出せない」などチームの調子がおかしくなると僕のところに連絡が入るんです。“チームのお医者さん”という感じで。

 で、そうやって連絡が入るときのチームの状態は、「チームの生活習慣病」のようなものになっている場合が多いんです。長年一緒のチームにいるから起こる生活習慣病。「そんなこと言わなくてもわかるでしょ?」とか「同じチームにいるし、長い付き合いになるかもしれないから、今後の人間関係を考えて細かいことは言わないでおこう」とか。しっかり話し合いをしなかったり、本音を言い合えなかったりするのは、チームの生活習慣病だと思うんです。

 そういうチームの生活習慣病を治していくことが自分の仕事なんですけれども、人間って体の調子が良い時にはあまり健康診断を受けようと思わないですよね? でも調子が悪くなって検査をすると大きな病気にかかっていたりして大変な思いをする。日頃から健康診断をしていればそうならなかった可能性が高いわけです。

 それは僕の仕事にも同じようなことが言えて、チームが勝っていて好調な時でも、調子が悪くなる要因ってどこかに潜んでいるんです。例えば連勝している時。出場している十数人はすごく盛り上がっているけれど、試合に出られない何人かは「はぁ?」みたいになっていることも少なくない。背後のチームがシラけてしまって一体感を失っていたり、監督から良い扱いをされていない選手たちが不満分子に変わっていったり。

 勝っているときはまだいいけれど、負け始めると「ほら見たことか」とか「勝てないと思ってたんだよ、こんなやり方じゃ」というように、不満分子が勢力を作るんです。そういうことを見抜き、試合に出られない選手たちにスポットを当てて、「彼らのおかげでいい紅白戦ができていて、そのおかげで試合にも勝てているんでしょ?」という話をして、勝っていたとしてもチームのバランスを保っていくのが僕の仕事なんです。

ーーある程度期間を決め、その間で選手を随時チェックできる方が良い結果が出やすいということですね?

 そうです。自分自身がシーズンを通じて定期的にチームにかかわることで、いろいろな問題を未然に防ぐことができる、健康な状態を維持できると思っています。だからスポット的にチームを見るのではなく、最低でもシーズンを通してなど、ある一定期間携わることが可能な環境を増やしていきたいと思っています。病気を未然に防いで健康を維持するだけではありません。人間は、色々な経験を通して学習し、成長していきますよね? チームが健康体を取り戻したら、次は、経験を通じて学習や成長ができるチームにしていくことが私の使命です。

 ただ、例えばJリーグのチームなどはシーズンを通しての見通しがなかなか立てられないことが多い。なぜかというと、監督が変わる可能性があるから。なので、監督がチームビルディングを必要と考えるかどうかではなく、GMやクラブの意向として導入してくれるといいなと思っています。

 じつは2020-2021シーズン、ラグビートップリーグ「NTTドコモレッドハリケーンズ」のチームビルディングに携わりました。ラグビーのチームアドバイザーは初めてでしたが、シーズンを通しての関わりでした。シーズン契約のメリットはいつでも選手たちの状況を把握できること。どんなに遠くにいても電話で「今どんな状況?」とか連絡を取れますし、そうすることで「すごく調子いいですよ、チームも僕も!」という選手や、「なんかチームの雰囲気が良くないですね」という選手など多くの選手から情報収集でき、チームに正しく「処方箋」を出すことができる。悪い部分を早い段階で摘み取れるんです。

 そういう意味でも、スポット的にチームを見るのではなく、シーズンを通してなど期間を決めて、ひとつのチームにかかわっていけたらなと思っています。

協力=BRIGHTON CAFE

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