青森山田高校サッカー部、黒田剛監督インタビュー。後編は、青森山田の更なる強さの秘密や黒田監督の指導論、そして夢を伺っています。青森山田魂の根底を支えるものとは?

――黒田監督が就任された当初、グラウンドは今の半分で、部員が18人というお話でした。

 学校としても、これからサッカーを強くしたい、という感じでした。青森大学の事務局からコーチに就任したんだけど「お前に何が出来るんだ?」という目で見られていました。その後監督に就任して1年目に、たまたま選手権に出た。でも、次の平成8年度に光星学院に負けた。25歳の時でしたね。悔しさで朝まで泣いた。でもその後は勝ち続けている。この時の負けの悔しさが、今の青森山田を作ったのかもしれないですね。

厳しくも温かく選手を見極め、コントロールしていく

――勝ち続けるために、どういうことを選手達に教えるんでしょうか。

 いざ試合という時に「こいつらには絶対負けないぞ」という精神的な優位さを持って戦うということですね。1日のうち2,3時間はピッチにいますけど、それ以外の21時間をいかにコントロールするか、選手を負けたくない気持ちにするか。それが指導者の腕の見せ所なんです。絶対に負けたくないという気持ちをかきたたせるんです。

――なるほど。でもコントロールしにくい、ひねくれた選手なんかもいるんじゃないでしょうか。

 昔はぽつぽついましたけど、今はあまりいませんね。選手達みんなが許さない空気ですから。このチームでは、そういう奴はチームの輪に入れない。いつの間にか、1年も経てばしっかりとしたチームのレールに乗っていくんです。先輩たちが作り上げた伝統というものがありますからね。

――サッカーで強くなりたい人にはもってこいですね。

 もってこいです。青森という土地を避けている人間もいるけど、そういった土地を受け入れられるか、ですね。

――そういった環境的な事を受け入れてくるから、モチベーションも高いのかもしれません。

 雪はどうしてもマイナスに捉えられがちですけど、雪をいかにパワーにするか、トレーニングの材料にするのかですね。雪とはポジティブに上手く付き合っていく。365日のチーム作りで選手権の時期に完成させるのだとすると、雪の時期は下積み。フィジカル強化です。春一気にベクトルの角度を変えてチームを作り、総体の時期に彼らを追い抜いていればいいんでしょ?という考え方です。

――下積みで土台を大きくしておく、と。

 サッカーに限ったことでは無いけれど、全てでアベレージを超えるような土台作りは大事ですよね。

――サッカーに限らない、ということですが、青森山田高校のサッカー部にいることで人間力はあがるものでしょうか。

 人間力、というのはわかりませんが、自立は早くなります。寮だから、洗濯やら掃除やら習慣が変わります。どうしたら早く終わるかなど知恵と工夫が生まれ、養われ、培われる。こういったことを積み重ねて訓練することで、社会に出たときに勝負所で前に出ることができるんです。生きる力と勝つことを徹底的に教え込む、という感じですね。今は競争の時代だから。サッカーを通してしっかり3年間鍛えられる。ただ3年しかないから、指導者がいないときにもしっかりできるように育てていきます。

練習中は笑顔も。メリハリのある雰囲気。

――その競争に揉まれる中で悩んでいる選手は多いと思いますが、アドバイスをいただけますでしょうか。

 自分がどんな選手になりたいか。プロならどこにいきたいか。どこのポジションをやりたいか。それは逆算で決まります。どういう自分になろうと目標を決めたら逆算をして、やるべきことを「負けない自分」でぶれずにやっていく。周りは関係ない。みんなに与えられた平等な時間の中で、やるべきことを見つけていくことですね。
 青森山田の基本的な考えもここにあります。『日本一のチーム』からの逆算の考えから、日々の練習が構築されるものなんです。その上で、構築された練習をやり抜く。日常をしっかりとやり抜く。そうすることで、常に全国で戦う強いチームを作るんです。

――自分との戦いですね。これをチームとしてやりたいと思って、チーム自体を変えよう引っ張ろうと色々試行錯誤しているキャプテンもいると思います。

 もしそこで悩んでいるとしたら、そのチームでのリーダーの素質は無いですね。人間的に信頼された上で、チームのためなら言いたくない事でも言える、嫌われてでも指摘できる人材が最適です。それが出来ればできる程、チームはまとまるし強くなりますから。

――適材適所。そこは指導者側が見抜かないといけませんね。では、その指導者はどんなことをすれば成長できるのでしょうか。

  見て感じるものが重要です。コーチを育てろとかではなく、感じるために自分を磨き上げるんです。色々なところに足を運んで吸収して、色んな失敗をしていく人間が上に立つべき。理想だけ言っていてもダメ。それができれば私の理想とする指導者となれると思うんです。たとえば、日本代表の監督もした岡田さんはそれが出来ているんです。知識、教養、サプライズ。それらを持ち合わせて「お!この人凄いぞ」と思わせることが出来るから、選手の扱いなどに上手さがあるんですよね。

――では、黒田監督のこれからの夢を教えてください。

 言えばキリがないけど、選手権で優勝することをやり残しては終わりたくない。選手権での全国優勝を達成したところで、次の野望として何が生まれてくるのか、というのは凄く楽しみですね。

黒田監督、ありがとうございました。
目標を定め、そこから逆算して日々の過ごし方を考え、構築していく。これが出来るようになると、サッカー選手としてはもちろん、ひとりの人間としても勝負できる、生き残れる人材になれそうです。そういった指導が選手たちを成長させてチームを強くし、さらにまた人材が集まってチームが強化されていくんですね。今年度の選手権も、青森山田から目が離せなそうです。