東京都心。ビルと校舎に囲まれたスペースで、色とりどりのユニフォームに身を包んだ選手達がアップを始めていた。そこは都内でも有数の進学校、暁星高等学校サッカー部。日本サッカー協会よりも歴史が古く、サッカー推薦をしていないにもかかわらず、強豪ひしめく東京都で現在もその名を馳せている名門校だ。
 狭い中、思い思いに動いていた選手たちが時間になると誰に言われるでもなく、さっと集まり始めた。統制がとれている、というのとは違う。それぞれが自分たちの頭で考え、体で感じて自然に動いている。そんな、とてもスマートな、大人な動きだった。
 そこに現れたのは、林義規監督。日本の高校サッカー界に欠かせない人物だ。そんな林監督は暁星の選手たちについて聞かれると、開口一番こう言った。
 「文武両道って簡単にいうけど、本当にしんどいんだ。もっと選手たちを褒めてほしいんだよね。あいつらは本当に頑張っているんだから」
 文武両道を地で行く暁星高校を率いて38年。そしてリーグ戦という概念を高校サッカー界に根付かせようと奮戦している林監督にお話を伺った。

――暁星高校のサッカー部は、その文武両道という言葉がぴったりです。

 今年、サッカー部からは東大2人。一橋2人、筑波2人、私立だと早・慶7人、同志社、上智…。でも進学校だけど、開成麻布っていう超一流校とは違う。そんな子たちが朝7時からサッカーの練習をやり、11月の選手権東京予選を最後までやって、それで現役で難関校に入っていく。浪人する生徒ももちろんいるけど、そういう面で言えばもっと子供たちを褒めてやっていいと思うんだよね。
 医者になった奴はいくらでもいるけど、U-17やU-20、トップチームのチームドクターももちろん出ている。大学の医・歯・薬学部の大会があるんだけど、うちの生徒が行ったところが優勝しますよ。医者だけじゃない。区長だって社長だって役者だっている。

 もちろん、選手として活躍する人間もいる。前田遼一のような選手も出てくるし、フットサルの代表もいる。稲葉洸太郎に星翔太、今回は外れたけど代表のキャプテンもやった北原亘。みんな教え子ですよ。
 選手権に行ける可能性もあり、東大にも行ける学校というのはそう多くない。やってるほうは必死だけど、こういう学校があってもいいんじゃないかな。

――OBの方々のお名前や職業を伺うに、本当に多岐に渡ってサッカー界を支えてらっしゃるんですね。勉強はどれくらいされるんですか?

 たくさんしているイメージがあるだろうけど、時間数は絶対足りないですね。試験前1週間は部活しちゃいけない、ってあるでしょ。でもうちはやらせちゃう。そうすると、時間が足りなくなって「ヤバい」って思う。それが一番なんです。「俺たちは他の人たちよりも時間が無いんだから集中してやらざるを得ない」って。試験前だからって練習を止めたところで勉強するわけがない。切羽詰まってないからね。時間が無い方が良い。困った方が良いんですよ。

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