――「サッカーをもっと好きになってほしい」と思って指導するようになったきっかけはどういったものだったのでしょうか。

 自分自身の体験が影響しています。実業団チームに入りましたが、わずか2年で実質クビになり、もうサッカーは辞めようと思いました。海外にでも行こうと思い立ち、指導者ライセンスの取得を口実にして1990年の1年間、英国に留学しました。そこで50、60歳の人たちが高校生とプレーしている様子に驚き、サッカーは楽しむものなのだと気づかされました。体系づけられた指導理論も、そのころまだ日本には導入されていないものばかりで魅力的でした。サッカーは楽しい。そして、もっと勉強すべきことがあると思いました。

――指導されている中で、欧州の指導理論を生かしているところはありますか。

 欧州で基本とされていることで日本にはまだ浸透していないものがいくつもあります。例えば、守りのチャレンジ&カバー。これを応用して、あえて中央にパスを出させてボールを奪うという守り方もやります。今回の選手権でも効果的でした。サイドで奪うよりも中で奪ったほうが攻めに転じた時に勢いがでます。
 資格のリフレッシュ講習の際に目に留まった練習法を採り入れたりもしています。詳細なデータ分析に驚かされることも多くあります。「ゴールの8割はボールを奪ってからパス5本、10秒以内で生まれている」ことが示され、ボールを奪ったら早く攻めるのは基本になっている。日本では奪ってまずつなぐという意識がまだ強いような気がします。欧州ではバルセロナのようなチームが出てくる一方で、そこにどう対抗するかを常に考えている。日本も進んでいますが、向こうもどんどん先に行っていると感じます。

――チームとして定期的に英国への遠征を行っていますが、その目的はどういったものでしょうか。

 富山第一でサッカーをやって得られるものをつくりたいといつも考えています。海外遠征もそのひとつ。英国留学でできたウエストハムとのつながりを生かして実施しています。うちの学校には修学旅行がないので、毎月積み立てをして在学中に1度は行けるようにしたいと思って続けています。昨春は11日間でウエストハムやレディングなどと練習試合を行い、プレミアリーグや仏国あったW杯予選を観戦しました。強化のためと言うよりも、自慢できるような体験をさせてやりたいという気持ちが強い。ロンドンの地下鉄のフリーチケットを渡し、グループごとに自由行動をさせたりもします。安全確認のために1時間ごとに連絡を入れさせますが、サッカースタジアムや大英博物館などを巡ってきます。これをきっかけに、外国語大学への進学や芸術を志す者もいますよ。

――良い体験ですね。では、今季への抱負を聞かせてください。

 日本一になって追われる立場になり、まわりからの注目度も高い。厳しい1年になるだろうが覚悟してやっていこうと選手たちには伝えました。結果ばかりを追いかけると見えなくなるものがあると思います。これからも「もっとサッカーを好きになってほしい」「いろんなものを持たせて送り出したい」という気持ちで取り組んでいきたいと思います。

(取材・文:赤壁逸朗)

 高校生という大切な時期にサッカー選手としてだけでなく、人間として成長できる選手達。優勝は、その選手たちの考える力や理解度の高さの賜物だったのですね。そして、自身も成長を続けようという大塚監督の意欲の高さも、チームの意識の高さに間違いなく良い影響を与えています。
 大塚監督、貴重なお話ありがとうございました!