日大習志野高等学校サッカー部飯田諒監督(写真=佐藤亮太)
―――ずいぶんスムーズに選手たちはやっていましたが、飯田監督はあまり時間を置かず、ビブスを総とっかえしていましたね。
そうですね。あの選手のビブスの色が赤と黄色だからと覚えて慣れてしまうと刺激になりませんし、暗記してしまうとダメなので覚える前にビブスをシャッフルします
―――選手の脳を動かし続けるメニューですね。どういった意図や狙いがあるでしょうか。
サッカーは「いま相手がこうだからこうしよう」という瞬間的で即興性が求められる競技です。瞬間的にプレーできるよう、無意識下でのプレーを覚醒させるトレーニング理論。これをヴィセラルトレーニングと言います。無意識にプレーしなければならないほど複雑な条件に設定することで、身に着けるものです。かなり難しいので頭がパンクするくらい負荷がかかりますが、そうした練習を重ねることで実際の試合になると楽にプレーできるようになります。たとえ相手が予測不可能な動きをしたとしても、普段のトレーニングをしているので、自然と対応できるように、相手の動きに驚かなくなります。傍から見ると、なにをやっているか、わからないかもしれませんが味方同士はわかっています。このトレーニングを行って1年になりますが、言葉ではなく「いまはこのような状況だな」と感覚的にそして無意識に対応することができる場面が増えたなと感じます。
―――このヴィセラルトレーニングを取り入れるキッカケは何ですか。
東京工業大学附属科学技術高校サッカー部前監督で、現在は日本文化大學サッカー部でアドバイザーを務める進藤正幸先生が紹介するトレーニング理論です。進藤先生は私にとってサッカーの先生であり、日大藤沢高校でコーチを務めていたころから、大変お世話になっていて、いろいろ教えていただくなか、このトレーニング理論に触れました。チームを良くしたい。でもどのような練習をすればいいのか。生徒の気質など考えたうえでどれがマッチするか。模索した結果、一番、感触がよかったので、取り入れています。
―――取り入れた当時の選手たちの反応はどうでしたか。
「なんだ、これは?!」という気持ちはあったと思います。ただ「やっていられないよ」という反応はなく、より実践的なゲーム形式が多いので楽しいと感じてくれています。フロー(サッカーに没頭した状態)に入るようにトレーニングを設定しています。これまでは練習や試合ではこちらが提示した「正解」通りにやりなさいというのが従来のやり方でした。しかし、このトレーニングはこちらが問題を提起し、その提示された問題に対し、選手がどう解決していくかを狙いとします。つまり決められた「答え」を練習するのではなく、「問題」をプレーするという事です。その分、トレーニング設定を組むのがいつも大変ですね。このトレーニングを行ううえで投げ出さずにやり続ける真面目さが大事です。難しいからこそ何とかしようと気持ちですね。ミスはOK。そのなかでトライしてこちらが想定していない答えを選手が出すことを見守る。時に選手からこちらの想定を超える解決策がでてくる。そこが楽しいです。
(文・写真=佐藤亮太)