――まったく甘やかさないですね。

 効率よく集中してやれよってことです。練習だって今は1時間30分以上やらないんだから。まず15時30分から17時。17時からは最初のメンバーに入っていない生徒たちが1時間30分練習をする。この環境だから、それ以外でボールを使った自主練も出来ない。だから練習時間だって足りないですよ。朝練習が7時からなんだけど、早い子は6時くらいからきて練習している。遠いところから通っている生徒はもっとたいへん。朝4時に起きて4時半の電車に乗って7時の練習に参加する。それで夕方部活を終えて、また時間をかけて家に帰っていく。それで他の暁星の生徒よりも進学率が良いんだから。
 やればできるんですよ。自然と工夫するようになるんだよね。これは勉強に限らなくて、サッカーも同じ。こうなりたい、こういうプレーをしたい、っていうモチベーションや考えが無いとダメ。

――聞けば聞くほど、なかなかハードな生活ですね。

 だから暁星サッカー部の先輩後輩っていうのは、10年20年離れていても分かり合える。同じ苦しみを味わっているからね。
 と言っても、選手権10回、インターハイは12回出ているけど、それは前の話になっちゃった。実力的にいえば今T3ですから、都内で30~40番目くらいじゃないかなと思っている。だから結果を出している、なんて言われるとくすぐったい話でね。でも生徒たちに負けて良いよとは言わない。諦めないで、やりつくしていこう、と。

――勉強にサッカーに、どちらにも全力で取り組む選手たちに対して、林監督が指導をする上でポイントとしているのはどういったところでしょう。

 生涯スポーツとしてサッカーに関われるように、技術を大切にしていますね。サッカーの技術って、ゴールデンエイジという10歳から12歳に完成されると言われているんですね。でも、フットサル代表の星とか北原だとかがうちに来た時は下手だったんだけど、上達していまや代表ですよ。フットサルなんて、それこそ技術が必要でしょ。だから大人になっても上達するんだなって。
 ポテンシャルという面ではサッカーで取った選手達じゃないから厳しい。すぐに結果はでないかもしれない。でも生涯を通してサッカーを続けていく中で40歳、50歳過ぎればどうしたって体は衰えてくる。その時技術があれば面白いじゃない。楽しくプレーできるじゃないですか。

――目的は「今」だけではないのですね。技術を大切にしているということですが、具体的にどのあたりに力を入れているのでしょうか。

 まず、やればやっただけ成果が上がるのは、ヘディング。ヘディングの強さは背が高い、ジャンプ力があるって言う事じゃない。これはヤル気とタイミング。これでずいぶん違ってくる。良いポジションを取っていないと競り合えないです。ヘディングの競り合いをカウントしていくと、ヘディングで優位に立ったチームの7割くらいが試合にも勝つね。もちろんセカンドボールの確保というところも大事だけど。
 うちはグラウンドが狭いから練習試合でのヘディングが無いんです。だから弱い。だから、それだけ個別で練習する。
 次に走ること。これは走れるようになるから走り込みは多少苦しい思いしてでもやらなきゃいけない。でも速く走るっていうのは出来ないんだよな。スピードを持っている子っていうのは努力しないでも速く走れる。長い距離を走るっていうのは訓練すればできるようになる。でも、マラソン選手になるわけじゃないんだから、長い距離を走るっていっても使いどころが悪けりゃダメなんです。それは試合の中で学んでいくようにしないと。

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