神戸弘陵グラウンド(写真=森田将義)

――プロに進んだ選手は、そうした感覚を持った選手でしたか?

 江坂は、とても技術が高く、アイディアのある選手でした。何とか自分の力で、チームを勝利に導きたいという強いリーダシップが印象的でした。トレーニングでは、Cチームの選手が「1対1をしてくれ」と頼むと快く引き受けていました。技術的に差があっても仲間が成長すればチーム力も向上すると考えていたと思います。お願いしてきた選手が上手くなりたいと思うなら、力を貸せる選手でした。自分のプレーが上手くいけばいいという考えだけではなく、仲間の気持ちも見える選手でした。田平は3年生になって、世代別代表に選ばれ始めてからは、仲間へ自らが経験したことのアドバイスやチームを牽引する言葉かけをしてくれるようになりました。下級生の頃は、どちらかというと自分に向き合うことが多かったのですが、チームの中心として、頼もしい選手に成長してくれました。最高学年なり経験と自信からリーダーシップが出てきたのです。新型コロナの影響で活動自粛してからも、江坂は「困っていませんか?」と声を掛けてくれて、webで選手の様々な質問に答えてくれました。田平も後輩たちの役に立ちたいとマスクを送ってくれました。それぞれのパーソナリティーは違いますが、我々が求める人材の素質を二人は持っていました。今のチームだと新二年生のMF田中祉同は、そうした感覚を持った選手だと思います。昨年の選手権では、1年生でレギュラーでありながら、チームの準備を懸命に頑張っていました。OBがJリーガーとして活躍することは、選手達の励みになるので、江坂や田平に続く選手を神戸弘陵から育てていきたいです。

――指導する上で大事にしている点を教えてください。

 我々は、これまでの取り組みで変えない部分と、変わっていく部分があります。アンテナを高く持てる選手を育成することは、以前から変えない部分です。子ども達の感性は江坂達の時代とは変化してきています。プレーの細かい部分を、具現化(見える化)にして伝える必要があります。映像を使ってイメージを共有することなどを意識しています。センスあるプレーの一言で片づけるのではなく、ボールの置き所や、タイミングまで細かく伝えるようにしています。私の経験による変化もあるでしょう。監督を始めた当初は若かったので、選手と一緒になり、喜んだり悔しんだりしていました。今はどうすればチーム力が向上するか、個人が成長するかを冷静に観るようにしています。若い頃は、チームを勝たせたい気持ちが凄く強かったと思います。近年では各個人が成長すれば、チームの勝率も上がるという考えになってきました。勝利のみと個人の成長のみのどちらかに偏ることはいいと思いません。勝利に拘っているから、技術・判断を疎かにしていい。技術・判断に拘っているから、負けてもいい。という感覚はありません。

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