――ボールを大事にするベースは変わりませんが、ポゼッションを重視していた以前とは志向するサッカーにも変化が見られるように感じます。

 今もボールを大事にして、ゴールを目指すことは変わりません。しかし、今日ではボールを大事にしてゴールを目指すプレーと、守りながらの相手の状況を観て、素早くゴールを奪う両方ができる必要があると思います。昨年の全国選手権ベスト8をかけた試合では、守備の時間が多くなる場面がありました。相手を押し込むプレーができない場面では、一気に流れの変化を起こすことも必要です。試合状況やスコアによってプレーの判断が変わってくるため、様々なケースに対応する判断力をもった個人・チームにしていきたいです。特に、プレミアリーグという高校年代トップクラスの舞台では攻撃と守備は表裏一体だということを痛感させられました。そうした部分はOBたちに経験させてもらった部分です。技術を大切にする姿勢と共に、これらも大事にしていきたいと思います。

――調子が良い選手が公式戦で起用される競争力の高さは、以前から変わらない神戸弘陵らしさと言えます。途中出場で出てくる選手もスタメンと変わらない力を持った選手が多くいます。

 現代のサッカーは、スタメンの11人だけでサッカーをするのではなく、交代選手を含めた全員で、試合の状況に対応することが大事です。複数のポジションができる選手、スピードある選手、空中戦に強い選手と今の弘陵には、個性的な選手が多いです。選手交代によって試合の状況に対応し、リズムを変えられるのは我々の強みだと思います。なかなか結果がでない時期から指導しているので、交代によって流れを変え、ギアを上げれることは本当に有難く思っています。

――就任した当初はどんなチームだったのでしょうか?

 サッカーをするために入学してくれた選手は11人くらいしかおらず、一般の生徒からサッカー経験者を見つけて入部をお願いするような状態でした。ヤンチャな生徒も多く、就任してから3年間は、サッカー以前に学校の過ごし方や挨拶の大切さなどを伝えるようにしていました。ただ、スタッフの目標は5年で全国大会に出場することでした。冒頭でお話しした” 見えない所まで目が届く感覚を持った選手”を一人でも多く育てようと必死でした。ある程度のレベルでトレーニングや試合ができるようになったのは、江坂が入学した監督就任3年目からです。そうしたら、県大会のベスト8に入れるようになりました。しかし、それより先に進むのに時間がかかりました。何度も全国行きがかかった決勝では負けています。近年では、年に一度はどれかの大会で優勝できるチームになりました。我々の強みは、結果がなかなか出せなかった苦しい時代を忘れていないところだと思います。

【次のページ】 近年は大学サッカーで活躍する選手も増えてきました。