読売テレビ立田恭三アナウンサー

 今年で記念すべき第100回を迎える全国高校サッカー選手権大会。その大阪予選を1回戦から取材し続けている「あすリートチャンネル」と「高校サッカードットコム」が初めてタッグを組んだ。スタッフが、数ある〝激アツプレー″の中から、「テクニック」「連携」「豪快さ」などを加味し、独断と偏見で選ぶ“激アツプレー”BEST10!の企画をあすリートチャンネルで実施中。

 この初コラボを記念して、普段あまり見ることのない全国高校サッカー選手権大会のテレビ中継の舞台裏や、実況に挑むアナウンサーの心境などを、数々の試合で実況を担当してきた読売テレビ立田恭三アナウンサーにインタビューさせて頂いた。

ーー初めての決勝の実況の際は前日から緊張もされていたと思うんですが、どういう気持ちで挑みましたか?

 とにかく緊張はしていましたね。"どんなことが起こるのか"と前日に想像を巡らせるんですけど、どう考えても答えが出なくて、自分の中で"こういう展開になる"というイメージも湧かなくて、気付いたら「あ、もう始まってる!」っていうぐらいの緊張感でした。それぐらい記憶がないです。それで確かその試合がPK戦だったと思うんです。1-1から延長戦で得点が入らずPK戦になったんですけど、実は大阪大会の決勝でPKになったのが久し振りで、僕が入社してからは初めてだったんです。

 その前にPK戦になったのが82回大会だったので2003年。私が初めて実況させていただいたのが2013年の話なので10年間決勝でPK戦がなかったんです。それで実際PK戦になった時に「あれ?PK戦ってどうやって実況するんだろう?」って(笑)。「過去の先輩のやつにはなかったぞ!」と、一瞬頭が真っ白になりました。でも、優勝が決まる瞬間に「あ、これは履正社が勝つぞ」「"履正社が初優勝"って言わないと」って、我に返って何とかやり遂げたのを覚えています。

ーー当日、実況で一番気を付けていたことってどんなことでしたか?

 我々にとっては仕事の一つかもしれませんが、高校生たちにとっては"大事な一生に一度の経験"だと思うんです。だから、"とにかく名前やポジションなど、情報を絶対間違えないように"っていう事、そして選手たちの気持ちに寄り添って"一緒に戦って楽しもう"という事を心掛けてやったのを覚えています。

 あとは、"選手全員の名前を1試合に1回は呼べたら"という事ですね。これは読売テレビの伝統なのかもしれないんですけど。もちろん、FWとか中心選手が目立ってくるんですけれど、「必ず一回は名前のテロップをいれて両チームの22人に一言言えたら」ってやっています。

 もっというと、試合に出ているメンバーだけでもないんですよね。当時は1チームの登録が25人だったんですけど、スタメンが11人じゃないですか?それとサブの選手、そしてサブにも入れない選手も含めて、事前の取材なんかは、できるだけ全員に話を聞くんです。実は、ある監督に言われたことがあるんですけど、最初は注目選手ばかりに話を聞いて気付いたら取材時間がなくなってっていうことがあって「全員に聞いてあげてくれる?」って言われて「そうだよな」って思ったんですよね。それは何故かというと、やっぱりチームって活躍している選手だけではなくて、裏で支えている選手も含めて全員で戦っているんですよね。その全員のチカラがあって勝利につながる…放送の中で伝えられることには限界はありますが、それでも、全員一人一人の努力を知らずして実況なんてできない、そう思ったんです。

 そんな取材を積み重ねていったおかげで、注目選手ではなかったんですけど、ミスをして交代になって泣いている選手が"ドン"と大きく映った時に、もちろん背番号も映っていないんですけど"あ、これは誰々"っていうのがわかったんですよね。それで「やっていて良かったな」と思いましたね。映るものすべてに実況しないといけない訳なので全員のストーリーを頭に入れていました。

立田アナウンサーが持ってきてくれた当時の資料「林大地は"履正社の元気印"」

ーーその時に今年応援リーダーにもなった林大地選手(シント=トロイデンVV)が履正社に1年生でいたと思うんですけど、彼の印象とかエピソードが何かあれば教えてもらえますか?

 この年は履正社高校にゴールデンルーキーというか1年生に物凄くいい選手が沢山いまして、スタメンだけでも4人5人の1年生が入っていて、その中でも林君は無邪気で少年の心を忘れていないというか、「林君が失敗したのならもうしょうがないな」っていうような本当に"THEムードメーカー"という感じで、先輩にもイジられるし、イジり返すし、チームの華だったんですよね。ここの資料にも"履正社の元気印"と一言私は書いているんです。

 つまり、例えば「林がスタメンじゃなくても出てきたら途端にチームが元気になる」というような本当に元気印で、取材の中で林選手が元気印だと感じていたので一言"履正社の元気印"と私は書いているんです。あと、今回の東京五輪代表で「変わっていないな」と思ったことが沢山ありまして、多くのチャンスでシュートを打つんですけど、枠に飛ばないとか外れてしまった時に必ず両手で頭を抱えるんですよね。あれは高校の時から全く変わっていなくて、あのポーズを見て凄く懐かしく思いました。高校1年生から見ていたので彼の活躍は凄く嬉しかったですね。

 あとは、チームって高校生が沢山いる中に取材で大人が入るんですよね。そうするとみんながソワソワしちゃうところを感じることがあるんですけど、林君に関しては僕らが来たらあっちから声を掛けてくれるんです。「あ、今日も来てくれたんですか!」「今日は誰の話を聞くのかな?」というような感じで懐に入ってくるのが上手というか。なので、何人か選手に話を聞きたいんですけど、「元気?チームはどう?」ってまずは林君に聞くっていう。そういう存在でしたね。

ーー林選手が言った言葉で印象に残ったことはありますか?

 決勝が終わって全国大会に向かう時に彼に「僕が元気印って言ったんだけど、あれ大丈夫だった?」と聞いた時があったんですけど、「嬉しかったです。自分も元気印になりたいと思ってるんです。でもここのところ調子が良くなくて、"元気がない"って監督から言われたんです」と言った後に「帰り道に街中でゴミ拾いを始めたんです!」って言ったんですよね。あとで聞いたら「『ゴミだけど運なんだ!運を拾うんだ!』って林が言いだして1年全員でやっているんです。今ではゴミ袋いっぱいになるようになりました」と他のメンバーも言っていたんですよね。非常に印象深いエピソードとして、覚えていますね。

 次回は最終回。激戦区大阪大会についての失敗談などについて深掘りする。

 (文・写真=会田健司)

▽全国高校サッカー選手権大阪大会“激アツプレー”BEST10!
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