レイソルの細谷真大を例にして話をすれば、彼をジュニアユースとユースの3年間指導しましたが、U−15で指導した時は4-3-3のウイングをやっていて、その頃は特別目立つ選手ではありませんでした。実はこのままではユースに昇格できないかもしれないと勝手に感じていました。ただ、力強いし、足が速かった。そこでシステムを4-4-2に変えてサイドではなくFWに置いてみたんです。そしたら化けた。相手を背負うことをまったく苦にしないし、反転力が素晴らしい。スペースでボールを引き出せるし、裏をスパンと取れる。ポストプレー向上のため、バランスボールを使って一緒に自主練していたのを覚えていますよ。
当時は感覚的に「彼はこっちのほうが活きそうだな」と思っただけで、偶然上手くいったのかもしれませんが、いろんな人と話しながら、やはりその感性は間違いではなかったんだなと。その感覚的な部分を意図的にできるのが良い指導者なんだろうなと、勉強を重ねた今はストンと腑に落ちますね。
――多くの選手を見てきて、大成する選手はどんな特徴がありますか?
中村俊輔はひとつの答えですよね。やっぱり特別なものがありましたよ。現役引退を発表する前日に連絡をくれて、「ラストゲーム見に来てよ」とチケットを取ってくれたりする、ピッチ外でも本当に素晴らしい人間なのですが、サッカーに対しても本当に謙虚でした。探求心や向上心が半端なくて、「とにかく全部上手くなりたい」と。FKだけじゃなく、パスもシュートも、守備も、走力も、全部磨きたいんだという姿勢でしたね。いつも真摯にサッカーと向き合っているからこそ、まだまだ足りないと思えたんでしょうね。
その原動力になったのは、マリノスユースに昇格できなかった悔しさなんでしょう。私の勝手な仮説になりますが、ユースに上がっていたらここまでの選手にはなれなかったかもしれません。人工芝のグラウンドを持っていたマリノスユースと違い、桐光学園は土のグラウンドでしたけど、使用時間に制限がなかったから好きなだけボールを蹴ることができた。それが彼にとっては良かったのだと思います。
それになにより、ユースに上がれない挫折を味わったことで、ハングリー精神が身についたのでしょうね。以前、日本代表を外れた時に一緒にご飯に行く機会がありましてね。その時に「代表を外れたことよりもユースに上がれなかった時のショックのほうが大きいよ」って言っていたのを今でも思い出しますよ。当時は中学生だったからというのもあるんでしょうけど、その悔しさがずっとある種のトラウマみたいに残っていて、「もうこんな想いはしたくない」と、それを力にしてきたんじゃないかなと。才能があっても潰れてしまう選手はたくさんいるけど、努力を続けられる才能がある選手こそ、やはり大きくなります。それを体現してくれたのが俊輔。彼のような頭の持ち主が、上にいけるのかもしれませんね。