ーーそうなんですね。福富さん的に、今回のW杯での森保監督の采配、手法で何か感じられたことはありましたか?

 サッカーって「やり方」と「在り方」という2つが大事だと思っていて。「やり方」というのは「こういう時にはこう、相手がこう来た時にはこう戦うんだ」という技術・戦術的なこと。もう1つの「在り方」というのは、「目的意識」、「自分たちは常にどういう姿でいたいのか」、「困難や葛藤への向き合い方」など、チームとしての「マインドセット」みたいなものですね。

 ちなみにほとんどのチームが、「やり方」のトレーニングに90%以上の時間を割いていて、「在り方」のトレーニングってあまりやらないと思うんですね。ただ、この「在り方」っていうのが大きなポイントでしょう。

 森保監督は、歴代の監督のなかでも際立って「在り方」を作り上げていくのが上手いと思います。「やり方」というのは、どれだけ練習しても格上相手には通用しない部分が出てくると思うんです。そういう時こそ、「在り方」というのが重要になってくる。森保監督のチームマネジメントとして、この「在り方」が肝だったんじゃないかなと。

ーー試合後に選手たちと抱き合ったりしている姿を見ると、そういう「在り方」の部分を重要視していたんだなと感じる部分がありますよね

 そうなんですよね。記事などをいろいろと読んで見ると、スペイン戦の戦い方などは事前にコーチングスタッフで考えていたけれど、紅白戦をやったらどうも守備が上手くハマらなかったようでした。そこで、選手からの提案も取り入れて戦ったみたいなんです。その選手は欧州でプレーしていて、スペインのクラブにも勝利した経験があった。事前にコーチングスタッフで考えていた戦い方を無理やり押し通すのではなく、選手たちの意見も受け止めてくれる監督・コーチングスタッフの存在って、選手からすると心強かったんじゃないかなと思いますね。

 選手たちが戦術を実行する上での納得感がすごく高いというか。守備的に戦うことで、攻撃的な選手たちの良さが発揮しきれていなかったという部分は実際にあったと思うんです。ボールも握れていないですし。ただあれだけ粘り強く守備をしながらの戦いは、選手自らが提案したからこそやれたんじゃないかなという気がしているんですよね。

 選手たちの提案を受け入れながら、用意していた戦い方を手放して柔軟に変えていけるというのは、監督としては結構すごいことだと思うんですよ。そういう意味で言うと、チームの中に多様性と同時に“同質性”も備えていたチームだったのかなと思います。

福富氏は「高いレベルで基準が揃っていた」とカタールW杯を戦った選手たちを評した

ーー“同質性”とはどういったことでしょうか?

 多様性が大切なのは言うまでもないですね。色々な武器をもった選手が集まった方が、あらゆる状況に適応できるというメリットがあります。相反するようですが、同質性とは同じような性質を持っているということ。同質性が高いと、チーム内でもいいコミュニケーションが図られ、メンバー間の関係も良好になり一体感なども高まりやすい。

 この同質性は今までの日本代表に足りていなかった部分かなと思います。思考のレベルや日常的に経験しているリーグのレベルだったり、困難や葛藤への向き合い方など、そういった部分での同質性が見受けられたような気がします。

 2014年のW杯では、日本代表のある選手から「欧州のビッグクラブに所属している選手と一緒にプレーできてうれしい」という趣旨の発言が飛び出し、「チームメイトを憧れみたいな目で見られては困る」と苦言を呈す選手がいましたね。選手間で過剰なリスペクトがあったりして。思考、経験値、日常のリーグレベルといった面で同質性が保たれていなかった可能性がある。そうなると、チーム内で自分を過小評価する選手が出てこないとも限らない。遠慮があれば活発なディスカッションはできないですよね。ところが今回のカタールW杯を戦った選手たちは、高いレベルで基準が揃っていたんだと思います。

ーーなるほど。代表メンバーが発表された時に「なんであの選手を選ばなかったんだ?」といった意見も多かったようですが、その「同質性」を見込んでメンバーを選んでいた可能性もありますね。

 実際に素晴らしい選手で、「森保ジャパンに必要不可欠」などと言われ代表入りを熱望されていた選手でも招集されなかったりしましたよね。でも、サプライズの選出・落選はワールドカップのたびに話題になるもの。今回だけではないですね。技術・戦術・フィジカル的な側面で選考するのは当然ですが、組織論の視点では、年齢や経験のバランス、それから性格的な特徴が特に重要ですね。

 上手な選手を上から26人選んでも勝てない。真面目な選手だけでも勝てない。はっきりと主張のできる選手、縁の下の力持ちになれる選手、底抜けに明るい選手、背中で示す実直タイプの選手、様々なキャラクターがいることが大切です。そして最重要なことは、試合の出番が少なくても腐らず、どんなときもロールモデルとなるような大ベテランの存在です。その選手が率先してチームファーストで動けば、若い選手たちは不満も文句も言えなくなりますからね。今回で言えば、川島選手でしょう。あと、あまりフォーカスされませんが、コーチングスタッフのチームワークも絶対に欠かせませんね。

 それから、「監督が選手をリスペクトしている」という記事を読んだことがあります。選手たちはハイレベルな環境でサッカーをしているので、欧州の最前線の戦い方などを選手からも教えてもらうこともあったようですね。そういう謙虚さって大切なのは頭ではわかりますが、立場が上がるほど難しくなると思いませんか?そんな監督に対して、「なんだよ、監督のくせにそんなことも知らないのかよ」っていう態度を取る選手もいなかったのでしょう。

 つまり、すべてを監督に期待しているような選手たちではなかったんだろうと思いますね。例えば「なんとかしてよ、監督。全然上手くいってないじゃん」と、監督に依存するような選手たちではなく、「監督、聞いてください。こういう方法もありますよ」といった積極的な提案ができるような選手たちだったんじゃないかなと思いますね。

 次回#2では森保ジャパンのメンバー選考やチーム内の関係性などについての話を紹介する。

協力=BRIGHTON CAFE

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