ーーただチーム内の関係性は良かったんじゃないかなという印象があります。

 そうですね。監督はきちんとイニシアチブを取っていたと思いますよ。特に、「在り方(チームとしての価値観づくり)」の部分で。多くの方は「やり方」の部分(戦術面)でのイニシアチブを期待していたのだと思ますが。森保監督のイニシアチブの結果、チーム内の人間関係が良かったのだと思います。単なる仲良し集団とは違いますよ。メンバー同士の関係性がいいと思考の質が上がり、委縮せずに安心して意見が言える。ポジティブなアイデアが生まれやすくなり、そのアイデアにワクワクして、行動の質も上がってくる。仮に、自分自身の提案が採用されれば「このやり方が正解だったと証明したい」というやる気や責任感が生じ、少々の困難があっても粘り強くやり抜く。そうやって、チームが1つの結果を残して成功体験を共有できれば、お互いねぎらい合ったり称賛しあったりしてますます人間関係が強固になっていく、という好循環になっていくんです。

 おそらくそういうことがチーム内で起こっていたと思うんです。4年間のチーム作りの中で、「きっと自分の提案も受け止めてもらえる」「不安や疑問を相談しても評価は下げられない」ということで、選手と監督の間に信頼関係が構築されていったんじゃないかなと。選手は自分たちの提案に耳を傾けてもらい、それがときに反映され、納得のうえで実行した。スペイン戦の勝利は最高の喜びだったんじゃないですかね。

ーー優しい印象のある森保監督ですが、コスタリカ戦のハーフタイムで強い口調でゲキを飛ばす動画なども公開されていましたね。

 状況によって、強いリーダーと黒子的なリーダーを上手く使い分けていたんじゃないでしょうか。チームに迷いが感じられた時は「強いリーダー」、チームが上手くいっている時は強さを出す必要がないので「黒子のリーダー」の役割を演じていたというか、状況に応じて存在感を意図的に変えたと思いますね。

「森保監督は状況に応じて強いリーダーと黒子的なリーダーを上手く使い分けていた」と話す福富氏

ーーちなみに今回は、出場機会がほとんど無かった選手もいたと思うんですけれども、不満分子になったというようなニュースは出ませんでしたよね?

 それをさせなかったのが川島永嗣選手だと思うんですよ。これは岡田武史元日本代表監督も言ってたように記憶しているんですが、「控えGK」の存在って特に重要なんです。控えGK、特に3番手GKってほかのフィールドプレーヤーと違って、よほどのアクシデントが度重ならない限り、まず試合に出ることはないんですよね。この“ほぼ試合に出ることのない”3番手GKの振る舞いがチームに大きな影響を与える。川島選手が3番手だったかは別として、キャリア抜群の大ベテランが試合に出られないのにチーム最優先の言動をしていれば、それはチームに大きなメッセージとなりますね。

 きっと川島選手ならチームの模範になるような行動を率先して取っていたんじゃないかなと。「試合に出られないのに、チームのためにここまでやるのか」といった具合に、誰も不貞腐れるようなことができない環境ができあがっていたはずです。岡田さんが監督の時(2010年W杯)は川口能活さんでした。GKというポジションに限らず、2002年W杯の時は秋田豊さんや中山雅史さんがその役割を担っていましたよね。

 日本代表がアジアアップ優勝やワールドカップベスト16に進出した時は、そういう「試合には出られないけれども、チームの模範となる大ベテラン」が存在していて、思うような結果が出なかった時は、そういう視点での人選が欠けていた印象があります。純粋に戦術的な引き出しを増やす意味でのメンバー選考が軸だとは思うんですけれども、チームの力学、つまり性格的な特徴やチームにもたらす個々の影響力を考慮した選考は絶対に大事です。

 次回#3では日本代表チームの特徴などについての話を紹介する。

協力=BRIGHTON CAFE

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