――先日、現役引退を発表されましたが、非常に賢い選手でしたね。

 ネルシーニョ監督、吉田達磨監督、その他の監督の時もいつもコンスタントに出番を得られていたのは、求められるプレーを確実に実行するインテリジェンスがあったから。大谷を作るわけではないですが、そういうインテリジェンスが備わったプレーヤーを作れたらいいなと。ほら、社会に出ても同じじゃないですか。部長が代わったり、現場が変わったりと環境は常に変化するもの。そこで「こうしたほうが上手くいくかな」と自分なりのやり方を見つけられる人は、やはり強いです。

――適応力を育むには?

 とにかく環境を作ることです。普段の練習で「この局面ではこうしろ」と雁字搦めにしてしまうと、その枠を越えることはできません。ですから制約を設けたなかで、介入せずに、子どもたちには「じゃあ、どうしたら上手くいくか」を考えさせる。教わったものは忘れるけど、自分で掴み取ったものは忘れません。「主体的に」とか「考えさせる」とかって指導者はみんな掲げているし、どの本にも書いてありますよね。ところが、「どのように」という“HOW”については明確な答えを持っている人は少ないし、本にもハッキリとしたことは書いていないんです。

――確かに「主体的」とはよく聞きますが、選手に意識させるのは難しい。

 その「答え」をなんとなく私は掴んでいます。大きなクラブでしたら、それをすぐに落とし込むのは難しいですが、この南葛SCのアカデミーはまだ歴史の浅いので、取り組みやすい。それをこのチームで実現させていきたいです。

――そのために今準備していることや心構えは?

 今はとにかくブラッシュアップの時期ですね。指導者を長く続けてきて、次の日の練習を考えなくていい日々は初めて。今までは常に現場に出ていたので、毎晩「明日は何の練習をやろうかな」と常に頭の片隅でメニューを考えていました。奥さんにもよく怒られていましたよ(笑)。でも今は少し余裕のある時間をいただいて、改めて指導の本質に向き合うことができています。

 東京という土地柄、いろんな人に会えますから、積極的に出向いて他の指導者の方と話をしたり、勉強させてもらっていますね。そのなかで昔から、どこまで指導者が介入するべきかという悶々としていた考えが整理されて、さっき言った「答え」となるバランスを見つけた感じです。

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